「女優になります。いつかキャスティングリストに入れてください」
東京・東中野の小さな映画館。情熱と夢をしたためた手紙を書いた河合優実(23)は何者でもない高校生だった。そこから6年の月日が流れ、河合は手紙を渡した山中瑶子監督とカンヌ国際映画祭の喧噪の真っただ中にいた。念願の初タッグ作にして主演映画『ナミビアの砂漠』(9月6日公開)が上映されたのだ。
当時の自分は“痛いヤツ”
2024年1月期放送の連続ドラマ『不適切にもほどがある!』を機に大きな注目を集めた河合は、立て続けに主演映画『あんのこと』、声優初挑戦のアニメ映画『ルックバック』などで確かな実力を見せつけた。2025年春には『あんぱん』で自身初の朝ドラ出演が控える。飛ぶ鳥を落とす勢いとは現在の河合のことだ。
俳優への憧れを胸に抱いていた高校時代、当時19歳の山中が初監督した映画『あみこ』に深く感動。舞台挨拶に参加していた山中監督に恐る恐る手紙を渡した。「結果から考えれば、あの時に勇気を振り絞って手紙を渡すことができて良かったと思います。それがなければ山中さんの記憶にも残っていなかったわけですから。その意味では自分をほめたいです。でも同時に『当時の私、痛いヤツだなあ…』とも思います」
国境を超えた実感
怖いもの知らずの高校時代の行動力を河合は「若気の至り」と苦笑するが、念願の初タッグ作は第77回カンヌ国際映画祭において国際映画批評家連盟賞受賞という快挙を成し遂げた。
「カンヌ国際映画祭といえば世界三大映画祭の一つですから、そんな場所に行けるなんて考えてもいませんでした。こんなに上手くいっていいのか!?と思うくらい奇跡的なこと。特別な体験でした」と感慨もひとしお。「監督に手紙を渡した時から計画してここまで来たわけではないので、自分の興味があることや自分が面白いと思う方向に純粋な気持ちで進んでいれば、こんなご褒美をいただけることもあるんだなと…」
『ナミビアの砂漠』では、やり場のない感情を抱えたまま荒々しく生きる21歳のカナを等身大で表現した。
「寝起きで冷蔵庫から無造作にハムを取り出してムシャムシャ食べるとか、街をズンズン歩くとか、心がカラカラに乾いている様子を砂漠で表すとか、脚本に書かれている一つ一つの描写が面白い。カナというキャラクターを表す動作やモチーフが素敵で、私自身もカナはハムをどう食べるのか?カナは道をどうやって歩くのか?などその時々のカナの顔を想像して、自分が見てみたいカナ像を探しながら演じました」
パッションは不滅
海外のプレスからは「息をのむほど素晴らしい」「河合は登場する瞬間から惹きつける」と絶賛されており、ここ日本でも主演賞総なめの予感がする。学生時代の夢が叶い、高い評価も得た。ブレイクNo.1女優と誉れ高い今、気持ち的にはひと段落ついたのだろうか?
こちらの愚問を河合は「いいえ、燃え続けています」と即座に否定する。「この作品の撮影中も別に誰からも拒まれているわけでもないのに、なぜか『今に見てろよ!』という謎の反骨精神がありましたから」。
勇気を振り絞って手紙を渡した6年前のパッションのまま、いやそれ以上に河合は内に熱いものを秘めている。