2025年度の実際の基礎的財政収支に注目したい
2025年度に基礎的財政収支が黒字化するという見通しは、あくまで現時点での推計です。国会での議論や経済状況の変化により、この見通しのようには進まない可能性もあります。
基礎的財政収支が黒字化した大きな要因のひとつは、税収額の増加です。政府の見通しでは、これからも税収は高い水準を維持するとしています。しかし、税収が見込みより小さくなってしまえば「バブル後初」の見通しは外れてしまうでしょう。さらに、ここ数年は年度途中に補正予算が組まれることで、政府の支出額が膨らんできました。今年以降も同じ傾向ならば、基礎的財政収支が赤字に転じるリスクは高く、今後も予断を許しません。
今年の秋以降に決まる経済政策における経費は、この見通しに含まれていません。岸田総理の記者会見(6月21日)では、低所得者世帯向け給付金や、学校給食費の負担軽減が検討項目にあがりました。また、農林水産や中小企業、医療介護保育、学校教育や公衆浴場、地域公共交通・物流・観光業といった幅広い分野への支援も考えると発表しています。今後の政治日程をにらんで、岸田政権は「バラマキ」となる支援策を打ち出したのでは、と懸念する声もあがっています。費用対効果を無視した支援策を進めれば、政策経費は大きく膨らんでしまい、黒字化目標の達成は再び先延ばしになるでしょう。
基礎的財政収支の黒字化は、政府債務の増加を止める第一歩です。借金である政府債務が大きくなりつづけると、利払い額が大きくなったり、貸し手が見つからないといったリスクが高まります。こうした事態が生じると財源が調達できず、私たちは十分な公共サービスを享受できなくなります。財源不足のリスクを避けるために、経済成長の促進と財政健全化に向けた取り組みを地道に続けることが重要です。
【参考】
▽内閣府「中長期の経済財政に関する試算(2024年7月)」
https://www5.cao.go.jp/keizai2/keizai-syakai/shisan.html
▽内閣府「国民経済計算(GDP統計)」
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html
▽財務省「平成財政史-平成元~12年度」第1巻
https://www.mof.go.jp/pri/publication/policy_history/series/zaisei05.htm
▽内閣府「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11670228/www5.cao.go.jp/keizai-shimon/minutes/2002/0621/agenda.html
▽YouTube「岸田内閣総理大臣記者会見 ー令和6年6月21日」(首相官邸)
https://www.youtube.com/live/_ksv0XiWVRo?si=NBX1UwEMUEtqJ8JG
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◆新居 理有(あらい・りある)龍谷大学経済学部准教授 1982年生まれ。京都大学にて博士(経済学)を修得。2011年から複数の大学に勤め、2023年から現職。主な専門分野はマクロ経済学や財政政策。大学教員として経済学の研究・教育に携わる一方で、ライターとして経済分野を中心に記事を執筆している。