2020年にエン・ジャパン株式会社が発表した「300社に聞く『社内失業』実態調査」によると、社内失業状態の社員がいると答えた企業の割合が9%、いる可能性があると答えた割合が20%という結果でした。社内失業状態の社員はいわゆる「社内ニート」とも呼ばれ、組織の雰囲気を悪くしているケースもあるようです。
都内の製造業に勤務して5年目を迎えたDさんも、近ごろ「社内ニート」状態の同僚に不満を募らせていました。Dさんは自身の仕事に加えて、後輩の指導など多忙を極めているにもかかわらず、同じ部署にいる3つ上の先輩であるEさんは手を貸してくれません。それどころかしょっちゅう喫煙室に行ったり、SNSに夢中になっていたり…。しまいには自社の仕事とは関係の無い「別の仕事」をしていたのです。
このような状況にも関わらず、EさんはDさんよりも基本給が高いのです。これに納得がいかず、Dさんのモチベーションは下がる一方でした。ろくに仕事もしていないEさんは、どうして解雇されないのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに詳しく聞いてみました。
社内ニートにもその人なりの事情がある場合も
ーなぜ「社内ニート」は解雇されないのでしょうか
企業が従業員を解雇する難易度が高いことが原因だと考えます。企業が余剰人員を解雇する「整理解雇」をおこなうためには、以下の4つの要件を満たす必要があります。
1.人員整理の必要性
2.解雇回避努力義務の履行
3.被解雇者選定の合理性
4.解雇手続の妥当性
このなかで特に「社内ニート」と関係があるのが、「2.解雇回避努力義務の履行」です。企業は従業員を解雇する前に、出向や異動などで配置転換を行い、従業員が働ける環境を提供する努力をしなければなりません。仮に、Eさんのように仕事をしない人であったとしても、働く環境を提供する努力を見せる必要があるのです。
このように、企業が従業員を解雇するためのハードルが高いため、やる気のない社員も雇用し続けないといけなません。
ーSNSや副業をしている場合でも解雇は難しいのでしょうか
通常、従業員は労働契約で「職務専念義務」を負うとされており、仕事中は業務に集中し、私的行為は控えなければなりません。Eさんの場合は、明らかに私的行為をおこなっているため、企業から職務専念義務違反だと言われる可能性は高いでしょう。
ただ、それでもいきなり解雇ができません。まずは本人への注意、従わなければ戒告・減給などの懲戒処分が段階的に行われ、最終的に諭旨解雇、懲戒解雇につながります。
また企業側が従業員に与える仕事がないという可能性も考えられます。企業は従業員に仕事を与えなければなりません。とはいえ例えば、かつて部長をしていた人に対して、一日中、シュレッダーがけを指示するというのは、パワハラと認定される可能性もあります。
もしかしたらEさんは、企業側から適切な仕事を与えられていないのかもしれません。就業時間中に、仕事以外のことばかりしている人にも、その人なりの事情が考えられます。
これらの事情を勘案しリスクとコストを考えると「解雇せずに社内ニートでいてくれたほうがよい」と判断する企業が存在するのも仕方がないのかもしれません。ただし、社内ニートとなった人も、給与は確かに保証されますが、その間の仕事の能力は低下してしまいます。今後のキャリア形成を考え、社内ニートを受け入れて会社に居続けるのか、収入ダウンを覚悟して転職するのかを考えてみてもいいでしょう。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。