新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要でギャンブルのオンライン化が浸透し、依存症になる人の低年齢化が進んでいる。競馬やボートレースなど公営のギャンブル(公営競技)の売り上げは右肩上がりで、行政はさらなる収益向上を目指す。大阪府でカジノを中心とする総合型リゾート施設(IR)の計画も進む中、依存症の支援団体は「行政の依存症対策が全く進んでおらず、苦しむ人が増えるばかりだ」と危機感を強めている。
依存症の当事者や支援者でつくる「ギャンブル依存症問題を考える会」(東京都)の調査によると、家族からの相談件数は、2019年は188件だったが、23年は479件とコロナ禍以降、2・5倍に増えている。当事者の年齢も、19年は20代~30代が54%だったが、23年には78%にまで増えた。特に20代が増えており、低年齢化が顕著だ。
スマホで手軽に
同会は「スマホ1台あれば24時間365日いつでもどこでもギャンブルができる環境になり、若者があっという間に依存症になってしまっている」と指摘する。借金の平均額も、19年は550万円だったが、23年は855万円と増加しており、重症化が進む。
スポーツ賭博を含むオンラインカジノの相談も19年の8件から23年は97件と10倍以上に増加。同会は22年6月に、オンラインカジノ対策の新法成立を求める要望書を国に提出している。
公営競技が増収
日本特有の課題に、公営競技の多さがある。地方自治体などが運営する競馬、競艇、競輪、オートレースが全国で100カ所近くあり、オンラインで簡単に賭けることができる。コロナ禍で開催会場の入場者数は減ったにもにもかかわらず、売上高は右肩上がりだ。考える会は「ギャンブル依存症というとかつては、パチンコ・スロットの問題だったが、今はオンライン化の影響で公営競技の存在感が増している。ほとんどなかった競輪やオートレースの相談も増えている」と明かす。
一方、各自治体にとって収益向上はそのまま税収につながるため、集客アップに余念がない。県営競艇場「ボートレースびわこ」がある滋賀県は、23年度に競艇を担当する部署を課から局に格上げし、マーケティングを強化している。
23年度の売り上げは735億円で、前年から約40億円増えて過去最高を更新。県は独自に動画サイトの公式チャンネルで全レースを中継するなど、利用者拡大を図った。県予算の一般会計への繰り出し金も増えており、乳幼児の医療費助成や県立高校舎の改修費などに充てている。
一方で、県立精神保健センターなどに寄せられるギャンブル依存症の相談も急増。21年度は537件と17年度から3倍超になった。県は売上金の一部を予算に充て、対策に乗り出す。
京都府内でも、廃止を含めて検討されていた京都向日町競輪場(向日市)が、コロナ禍以降の売り上げが好調として、存続が決定。大阪府でもIRの30年の開業に向け、計画が進む。
「考える会」の田中紀子代表は「行政の依存症対策は口先だけで全く進んでおらず、そもそも、国や自治体の財政をギャンブルでまかなおうとする姿勢自体、問い直すべきだ。水原一平さんの違法カジノ問題は対岸の火事ではなく、国内でも依存症は深刻さを増している」と警鐘を鳴らす。
コロナ禍で時間と退屈埋めたかった
京都市内の自助グループに通うケンさん(25)=仮名=も、コロナ禍で公営競技やオンラインカジノにはまった一人だ。大学時代、パチンコやパチスロに通っていたが、コロナで行けなくなった。大学の授業もリモート、バイトもなくなり、あり余る時間と退屈を埋めるために、スマートフォンを使って競馬を始めた。
ところが競馬は頭数が多くて当てるのが難しく、選んだのが6艇で競うボートレースだった。ボートは毎日午前8時半から約13時間、切れ目なくレースが行われていた。授業をリモートで受けながらも、一日中ボートレースに明け暮れた。すぐに金に困り、消費者金融や友人から借金した。
就職すると、賭ける金は一気に増え、仕事中も、トイレや移動する車の中で賭け続けた。ボートが終わると、午後11時ごろまでやっている競輪。競輪も終わるとオンラインカジノ。寝る間も惜しんだ。消費者金融やクレジットカード、後払いのアプリ、友人…。借り先がなくなるとヤミ金にも手を出した。
昨年6月。給料日の夜に全額をオンラインカジノに使い果たし、「自分の力ではどうにも止めることができない」と自覚せざるを得なくなった。すべてを家族に打ち明けると、かえって心は楽になり、自助グループにもつながることができた。
ケンさんは「食事もできず、夜も眠れず、借金をどうごまかそうかと常に頭がいっぱいだった。ギャンブルが楽しくないのにやめられなかった。今はやらずに正直に生きようと思える」と固い決意を語った。