29歳息子の70万円を肩代わり…あとから800万円以上もの借金が判明 「ギャンブルは二度としない」に裏切られた母の行動、その結末は?

依存症という病

京都新聞社 京都新聞社

 「競馬と浪費でカードローン70万が払えない」。滋賀県在住のハナコさん(55)=仮名=が長男(29)から初めて借金を打ち明けられたのは2020年2月。長男は金融関係の仕事だったため、借金がばれると解雇される恐れがあった。「懲りてやめてくれるなら」と肩代わりした。

 ところが1年半後、借金が400万円あると明かされた。何度か問い詰めているうちに、申告額は800万円に増えていった。

300万円肩代わり

 ある友人に600万円借りており、半分返済したいと懇願された。「そんな大金を貸す人がいると思えないし、実は犯罪に加担しているのでは」と心配で胸がつぶれそうになり、言われるがままに支払った。

 のちに、“母親ががんになった”とうそをつき、友人の優しさにつけ込んでいたと知った。

 「二度としない」との言葉を信じ、残りの借金の返済計画を作り、金銭管理も始めた。だが数カ月後、隠していたカードで続けていたことが発覚。「息子は人間失格やと絶望した」

 ハナコさんはようやく長男の状態が異常だと気付いた。ギャンブル専門の相談電話にかけると、依存症で完治しない病だと告げられた。その上、借金の肩代わりや金銭管理など、これまでの対応がすべて間違いだと断言され、近くのギャンブル依存症家族会への参加を勧められた。

自分だけじゃない

 22年5月、不安を抱えながら家族会に参加すると、多くのメンバーが同じような体験を語り、「自分だけじゃない」と驚いた。さらに、問題を抱えているのに、皆が明るかった。「自分にも息子にも未来があるかも」と初めて一筋の光が見えた。

 「一切手助けせず、手放しなさい」。家族会で強く助言された。「見捨てるのはかわいそう」と思ったが、あらゆる手段を講じて全て失敗した過去は重かった。「覚悟を決めよう」

 「回復施設に入るなら支援する。それ以外は援助しない」と長男に宣言すると、「病気じゃない。競馬で借金を返す」と言い張った。家から出し、LINE(ライン)をブロックした。すると人が変わったように荒れ、自殺を何度もほのめかした。

 「本当に死んだらどうしよう」。家族会の支えで、手を差し伸べたい気持ちをぐっとこらえた。その年の9月、友人への返済のめどが立たず、行き場もなくなり、「回復施設に入りたい」と憔悴(しょうすい)した様子で家に戻ってきた。

 借金とうそ。ギャンブル依存症の二大症状と言われているが、長男はまさに典型例だった。施設の職員から、「借金は全部で1700万円あった」と告げられた。さらに入所1年後、別の友人から数百万円だまし取られたと警察に被害届を出され、逮捕された。その友人にも母親ががんと偽っていたという。ハナコさんが示談して起訴は免れ、今も施設にいるが「優しくて真面目だったのに、ギャンブルが人を変えた」。

 昨年11月、長男の講演を聞いた。「家族が突き放したのは、自分のためだったと今は分かる。家族と仲間のおかげで今がある」
     ◇
 当事者を“手放す”という対処法。最善策だと説得されても、禍中にいる家族は不安にさいなまれる。今年1月、長男(23)の借金を知った府北部在住のヨシコさん(51)=仮名=も揺れる心と必死で闘った。

何度も死ぬ、殺す

 働いている飲食店のレジから金を盗んだと連絡があり、すぐに肩代わりした。その夜に、インターネットで調べて家族会とつながり、強く言われた。「もう絶対に肩代わりしてはいけない」

 解雇されて路頭に迷うのでは。友人を失ってしまうのでは。「死ぬ」「殺す」と何度も泣かれて、肩代わりしたい気持ちにかられた。だが我慢した。すると長男は2月下旬、自ら精神科病院への入院を希望した。

 ヨシコさんは「助言を信じてよかった。回復への一歩を踏み出してくれたら」と少し穏やかな顔で語った。(藤松奈美)=次回は11日に掲載予定です

家族会や自助グループ 各地に発足

 ギャンブル依存症者を持つ家族が、当事者への対応や借金の問題など解決策を相談できる「全国ギャンブル依存症家族会」の支部が各府県にできつつある。現在、全国に35カ所あり、京都は2020年2月、滋賀は21年12月に発足した。

 ギャンブル依存症には、借金や治療のための入院、離婚、養育権など多様な問題が重なり、家族を大きな苦悩に巻き込む。家族会では過去に経験した会員が相談に乗り、必要があれば病院や保健所にも付き添う。

 京都支部の世話人、安東洋子さんは「パニック状態で来られる方がほとんど。家族の恥だと抱え込んでいる人がいたら、みんな同じ経験があるから心配せずに来てほしい」と話す。

 借金の肩代わり、金銭管理、行動監視、説得や説教…。子や配偶者に何とか回復してほしいと願って起こす行動は「病気を進行させるだけ」と断言する。

 当事者は、自分の力ではどうすることもできない「底付き」状態にならないと自覚が生まれないといい、家族が資金や生活援助をせず「手放す」ことが何より重要とする。

 自助グループへの参加も勧めている。家族自身が内面を見つめる場で、当事者の問題解決に人生の意味を見いだす「共依存」になっていないか、自らも生きづらさを抱えていないかなどについて語り合う。

 自助グループも増加傾向にあり、京都は昨夏、1から3団体に、滋賀はゼロから2団体になった。ほぼ毎週ミーティングが開かれ、各回に10人前後が通う。

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