時折TV番組で、古びた金庫を開けて中身を確認するという企画が放送されています。期待して待っている金庫の持ち主が、鍵が開いて金庫の中を覗き込む時に一喜一憂する姿が印象的です。
そんなテレビ番組を見ていたAさんは「そういえば我が家にも開かずの金庫があったな」と思い出します。その金庫は10年前に亡くなったAさんの父親が所有していたもので、同居していたAさんがそのまま受け継いでいました。父親からは、祖父から受け継いだものであると聞かされていました。
AさんはTV番組のように金庫の鍵を開けてみようと思い、早速鍵開け業者を手配します。いざ金庫を開けると、中から旧紙幣で100万円分の現金が発見されました。予想外の大金に喜んだAさんでしたが、この現金がどうして金庫に入れられることになったのか、経緯が分からず困り果ててしまいます。恐らく祖父が残した財産だとは思われるものの、日記などの記録もなく確認することはできません。
このような場合、Aさんはこの100万円を自分のものにできるのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに話を聞きました。
ーAさんはこの100万円を自分のものにできるのでしょうか
開かずの金庫に入っていた現金は、その金庫が父親の所有下にあったことから金庫の中身も相続財産であると推定されます。ただ遺産分割には時効がなく、相続人がAさんのみであればAさんが相続し、Aさん以外に相続人がいれば誰が相続するのか、他の相続人との間で話し合い(=遺産分割協議)が原則必要です。この場合必ずしもAさんが自動的に全て取得することにはなりません。
もし相続発生時に金庫が開けられていれば、中に入っていた現金も相続財産として扱われ、必要に応じて相続税を支払うことになっていたはずです。
ー相続税を支払う必要なないのでしょうか
相続税は、被相続人が死亡したと知った日の翌日から10カ月以内が申告期限になっており、申告期限から、国や自治体による税の徴収権の時効は原則5年で消滅するとされています。
ただし、虚偽や捏造などの悪意があった場合には、この期間が7年とされています。今回の場合を当事務所の顧問税理士に聞いてみたところ、金庫の中に現金が入っているのを父親も知らなかったわけなので、時効は5年と判断されるのではないかとの見解でした。仮に7年だと判断されても、Aさんの父親が亡くなってから10年が経過しているため、いずれにせよ時効を主張できるでしょう。
ーもし期限内に調査が入って見つかった場合にはどうなるのでしょうか
顧問税理士の見解では、仮に期限内に税務調査が入って、金庫の中身が判明していたとしたら、無申告加算税や延滞税などのペナルティが発生する可能性があります。ほかには申告した税額が本来の税額よりも少なかった場合に発生する過少申告加算税や、申告内容が意図的に仮装や隠蔽されたと客観的に判断された場合に発生する重加算税などがあるので注意が必要です。
◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。