10年で社員が700人規模に…法律の観点から社会問題に切り込む 「弁護士ドットコムニュース」の舞台裏

メディアのこれから

山脇 未菜美 山脇 未菜美

新規参入が相次ぐネット業界で、法律という観点から独自の地位を確立しているメディアがある。弁護士ドットコムニュース。2012年に創設し、近年は事件の加害者取材にも力を入れるなど、社会問題に深く切り込んだ記事を量産している。運営企業の弁護士ドットコム株式会社も10年前は社員が40人ほどだったが、今では700人規模に。今年4月、新編集長に就任した山口紗貴子さんに、これまでの歩みや運営の舞台裏について聞いた。

インターネットで法律をもっと身近に

――弁護士ドットコムは法律相談ポータルサイト「弁護士ドットコム」、電子契約サービス「クライドサイン」など、さまざまな事業を手掛けています。弁護士ドットコムニュースはそんな中で、どのように始まったのでしょうか。

「インターネットで法律をもっと身近に」というビジョンを掲げて、2012年に社長の一声で始まったんです。万一の時、正しく法律を使って対処できるようにする「予防法務」の観点から。当初は、事件や事故、芸能人の不倫や離婚…など、話題になっているニュースの法的解説を弁護士にメールで聞いて、コメントを載せるのが中心でした。

――今のような独自記事が増えたのはいつごろからですか。

14年12月の会社の上場を前後に社員の人数が増えるとともに、編集部にも新聞や出版社のメンバーが増え、取材体制を充実させることができました。15、16年あたりは出せば出すほど読まれた時代で、ある意味幸せな時代でした(笑)しかし、徐々に新聞やテレビなど大きなメディアがネットニュースに力を入れるようになって、ライバルが増えていきました。改めてPV以外の価値を高めていかなきゃ、と。この危機感は今もを覚えています。

ライブ配信で2000回以上「荒らし」投稿した加害者に直撃

―最近では、Youtube配信中に2000回以上、荒らし投稿をして、相手を活動休止に追い込んだ男性の直撃取材をしていましたね。

誹謗中傷の話は、女子プロレスラーの木村花さんがなくなった事件があり、その前から追いかけてきたテーマでした。法改正を積み重ねてきましたが、投稿する人がいる以上、誹謗中傷はなくならない、と。法律が抑止力になっていないのではないかというのが、記者たちの実感でした。じゃあ、誹謗中傷を書いている側に当たろう、と。弁護士の協力などを得て何人かの加害者にアプローチして、ようやく取材が叶いました。

正当化はできないですが、当事者には当事者の言い分があります。背景には孤独、ネット以外に居場所がない問題。精神疾患を抱えている人も少なくない。弁護士によると、精神疾患が多く、裁判で賠償を命じられても払えない状況もあるようです。法改正をしたところで、被害者の救済になっていない現状があるので、そういう側面も伝えていくべきだなと思って。当事者に取材するため、根気よく文通もしますし、当事者への取材は今後も力を入れていきたいと考えています。

リアルな法律相談も記事に

――そば店で並盛りを頼んだら大盛りが出てきたのでそのまま食べてしまったけど問題ない?という日常でありそうな、絶妙な切り口な記事も印象的です。どのようにしてネタを集めていますか。

当社のサービスとして「みんなの法律相談」というものがあって、そこに寄せられた内容を参考にしています。月300円で、会員の相談に弁護士が回答するものなんですが。累計130万以上の相談があります。実際の法律相談なのでリアルだし、一般の人たちはこういうところで困っているんだなっていうのが分かるので、投稿された内容は編集部の記者も参考にしています。

離婚男女の話、セクハラ、パワハラ、リモートワークの労働問題…。どこからがアウトなのか、など。継続して見ていると、この類が増えているなど、大きく社会問題になりそうなテーマというのが感覚的に見えてくるんです。最近だとマッチングアプリに既婚者が潜んでいる話。現代的だし、実際当事者は人生を大きく左右される。下手すれば2、3年の婚活を棒に振っちゃった人もいて、ひどい人だと妊娠して相手と連絡が取れなくなる人もいます。問題だと思ったものは、定期的に注意喚起の記事を出すようにしています。

――記者はどんな人がいますか。今後の目標も教えてください。

今は編集部7人で、月100~120本配信しています。出所者支援や、性暴力問題を追ってきた人…。画廊や展示施設で美大の女子学生や女性の美術作家たちにつきまとう「ギャラリーストーカー」を取材する記者もいます。社会問題は突き詰めれば制度や法律の問題に行きつくので、弁護士ドットコムの器に収まると思っています。変わらず、弁護士や法律をもっと身近にして、法律トラブルに悩む人を少なくしたいというのが大きな目標で、ネットニュースとして存在感を高めるためにも、社会派ニュースで独自スクープも増やしていきたいです。

山口紗貴子(やまぐち・さきこ) 弁護士ドットコム編集長。1979年、静岡市生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。新潮社で週刊新潮や書籍部門などに在籍し、15年に弁護士ドットコム株式会社に入社。24年4月から現職。

多種多様なウェブメディアが生まれている昨今。さまざまな企業が参入し、誰もがコンテンツを制作できるようになりました。まいどなニュースもその一つで、今年4月17日に5周年を迎えました。どのようなニュースが読者のためになるのだろう…と日々、試行錯誤しています。新たな伝え方に挑むネットメディアに、運営の裏側や「メディアのこれから」について話を聞きました。

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