「赤ちゃんしか預かりたくない」ファミサポ登録会で耳にした言葉に絶句 育児経験がなくても? 女性労働協会に仕組みを聞いた

太田 真弓 太田 真弓

「責任を持って任せられない」と判断した場合は?

ファミリー・サポート・センターは各市区町村または各市区町村から委託等を受けた団体が運営。会員同士のマッチングや連絡、調整、提供会員に対する講習会や会員同士の交流会などを実施しています。

現在、提供会員になるには、保育施設までの送迎や習い事の送迎、保育終了後や買い物等外出の際の子どもの預かりなど依頼会員からの要望に応じて援助活動を行い、各センターで決められた報酬を依頼会員が提供会員に支払うことで成り立っています。

今回の関心の高さを受け、全国の各ファミリー・サポート・センターのネットワーク拠点として運営支援を行っている女性労働協会にも取材。協会側もヘレン桜さんの投稿やコメント等を目にしていたそう。どんな人が登録に?どのようにマッチングを?気になることを色々とお尋ねしました。 

ファミサポ事業についての正しい情報を

――今回の投稿への反応をご覧になっての率直な感想をお聞かせください。

私どもも正直ショックを感じながらも、興味深く読ませていただいておりました。ファミサポ事業についての周知広報や正しい理解を伝えていかなければならないとより一層感じた次第です。

――提供会員になるための条件などはあるのでしょうか?

年齢や性別等特に条件はありません。「地域で子育てのサポートをしたい」「子どもが好き」「子育て経験を活かしたい」といったやる気のある方であればどなたでもお受けしています。50代の方が一番多く、次いで60代、40代の方、70代以上の方もいらっしゃいます。高齢とはいえお元気な方も多く、40〜50代で登録された方が活動に携わり、10年20年継続しているという方もいらっしゃいます。

この事業は仕事として専門的な資格を持った方が預かるのではなく、地域の住民の方々の「子育てを支えよう」「何かできないか」という気持ちの支え合いにより成り立っています。保育施設やベビーシッターとはそもそもの仕組みが異なり、会員同士で助け合うということになるので、会員同士は対等であるということをまず理解していただけたらと思っています。

アドバイザーが提供会員の適性を見極め

――昨今の乳幼児~小学生を取り巻く事件や事故、性犯罪の報道などの影響もあり、子供を預けることに敏感になるのが当然かと思われます。マッチング前の時点ではどのような対応や対策を?

提供会員さんが本登録に向け講習を受けていただく中で、アドバイザーが直接コミュニケーションを交わす機会が何度もあります。アドバイザーは、講習を受けてらっしゃる方がどんな人でどんな思いで参加されているのかを把握しながら対話を繰り返し、こまめにチェックし、適正を見極めていきます。

例えば、今回の投稿にあった「赤ちゃんしか見たくありません」「育児経験がないです」という方が、その思いのままでいらっしゃるのか、その後変わっていかれるのか等、講習受講中の様子や気持ちの変化を丁寧に見ていきます。そういった中で、アドバイザーからみて「責任を持って任せられない」といった提供会員さんに依頼がいくことはありませんので、ご安心いただければと思います。また、提供会員は9割以上女性で、お子さんの性別に関わらずサポートしてもらっています。男性会員は少ないですが、男の子のサポートを担当してもらっています。

――なるほど。講習中に会員のお人柄を見ていかれるのですね。

ファミサポとして一番大切にしていることが「お子さんを安心・安全にお預かりする」ということです。とにかく「顔が見えるサポート」を心がけています。依頼してすぐに活動が始まるわけではなく、事前に必ず顔合わせを兼ねた面談を行い、お互いの意向を確認し、活動をスタートするかどうかを決めていただきます。可能な限り初回の面談時はアドバイザーも入ります(※センターの規模や依頼内容により、会員同士のみの面談の場合もあります)。

マッチング→活動までのプロセスが大事

――もしマッチングがうまくいかなかった場合は、都度相談はできますか?

もちろん可能です。安心して「この方にお願いしたい」となった時点で活動は始まります。逆に預かる側の提供会員さんも、依頼会員さんのお子さんやご様子を見て、受けられる依頼の内容であるかどうか、「預かることができない」と判断した場合は、断る例もございます。双方納得ができた場合にのみ活動が開始されるため、条件が合わない場合は、紹介→マッチングを繰り返すことになります。

預ける側にとっては「急用ができたから預かって欲しい!」といった即時的なお願いをすることが難しい仕組みとなってはいますが、このプロセスを大事にすることで安全な預かりができています。

――マッチングがうまくいった場合は「ぺア」となり、その後の依頼も基本的にはペアの提供会員さんが受け持つのでしょうか?

はい。すべての依頼に対してアドバイザーが一番適切なマッチングを試みようと尽力しており、おかげさまで一度ペアになったら、良い関係性を築いていっている例がほとんどです。

もちろん、違う方への変更も可能です。時間帯が合う方に変えたり、柔軟に対応できるように仕組みを整えています。その際も都度、活動開始前に双方顔を合わせての面談を行っています。

お子さんの安心・安全を第一に

――各センターにより、講習や研修の内容は異なるのでしょうか?

こども家庭庁が定める「実施要綱」に記載のある講習を修了することが基本であり、その内容は各自治体の裁量によるところが大きく、内容は異なってきます。

「子どもを預かる」ということの難しさやリスク、安全に預かることの重要性を学んでいくカリキュラムを各自治体それぞれで組んでおりますので、講習をすべて受けた上で、ご自身の適性に合わせて改めて本登録をするかどうかを決定していただけたらと思います。すべての講習を完了した方のみが提供会員への本登録が可能となります。

――登録した後の対応は?

少なくとも5年に1回のフォローアップ講習を義務付けており、この頻度も各センターによって異なります。

安全に関しては、「リスクマネジメント講習」を当団体でも毎年開催し、各センターに冊子等を提供しています。ファミサポは、「1対1」での預かりはもちろん、多胎児さんや兄弟姉妹がいらっしゃる場合を含め、預かったお子さんを責任をもってしっかりと見ること、他人のお子さんを預かること=他人の命を預かること、という自覚をもって活動することを提唱しています。

――預かり場所については、どのように?

元々は「提供会員さんのご自宅でご家族と一緒にすごす」というのが事業スタート時の趣旨でした。その後、社会情勢や様々なニーズにより、現在は各センターで取り決めていたり、提供会員さんの自宅や依頼会員さんの自宅、育児支援センター、公園など様々なご依頼の場所に対応するようになりました。

「お子さんの安心安全を確保できるか」が一番大切ですので、それを確認した上で場所は決めていただいています。最初のマッチングの打ち合わせを提供会員さんの自宅で行うことも多いです。

――では、マッチングされない提供会員さんも?

いらっしゃいます。依頼の内容や時間帯等で、提供会員さんの希望とマッチングしない場合も多くあります。ただ、せっかく会員となってくださっているので、各センターでは定期的に講習会や体験イベントを開催したり、会員同士の交流会を行ってお手伝いいただいたりと、継続的に声をかけ、足を運んでもらうようにしています。

アドバイザーはそういったイベント参加時の会員さんたちともふれあいながら、各々の適性や活躍の場の拡大の可能性を探し続けています。

――アドバイザーさんがかなり大きな役割を果たしてらっしゃるのですね。

常日頃から、通常の活動や報告書のやりとりをはじめとする何気ないコミュニケーションの中で、提供会員さんにとって負担にならないよう、やる気を引き出しながらうまく調整をしています。提供会員さんの主体性を尊重し、義務ではなく無理なくできる活動を心がけ、業務を割り振っています。アドバイザーの仕事量や力量は、経験やスキルが必要となってくるものとなり、当団体でも「全国アドバイザー講習会」を約30年にわたって行っています。

――今後、ファミサポの活用度アップのために取り組んでいきたいことは?

今、依頼会員になってらっしゃる方が、お子さんが成長した20年30年後に提供会員となり、地域に還元していただけたら一番ありがたいです。循環していける仕組みを作っていきたいです。

ファミサポに関する正しい情報が伝わっていないという状況があること、「預けるのが怖い」という印象を持たれている現状、「会員登録への手続きが面倒だ」といった声があるのも事実です。

ただ、実際の現場では、依頼会員さんが単純にお子さんを預けるだけではなく、提供会員さんに日頃の育児の不安や悩みを聞いてもらえる場になっているとも聞きますし、提供会員さんも親身になって寄り添い、良い関係性を築いている実績があります。年配の提供会員さんにとっては生きがいができることにもなり、依頼会員さんにとってはこどもの成長を一緒に喜んでくれる存在ができたことが心強くありがたい、といった声も届いております。

ーーそれを踏まえ、今後はどのようなことを伝えていきたいですか?

「ファミサポを通じて構築された関係性が地域全体に繋がり、良い影響を生んでいる」という実態が伝われば良いなと思っています。ファミサポの正しい姿、今の時代であるからこそ必要な「人と人とのつながりを大切にする仕組み」であることをお伝えしていきたいです。

そのためにはやはり様々な年代層への周知が必要かと。それぞれのお住まいの地域で、できるだけ狭い範囲で、例えばショッピングモールや公共の場を活用してファミサポの活動について知ってもらえたらと思っています。

そして、子育て支援は、お子さんがいらっしゃる家庭はもちろんなのですが、働いている若い世代やちょっと興味のある方が自分のできる範囲で少しだけでも手助けしてくれれば、とても大きな力になると思っています。子どもの純粋さに触れることで、エネルギーをもらったり癒しになったりといった効果も期待できます。できる範囲でできる活動にぜひ関わっていただきたいです。

◇      ◇

ヘレン桜さんが投げかけてくれた懸念を発端に、女性労働協会さんからのお話を聞き、あらためてファミサポについて詳しく知ることができました。ヘレン桜さんご自身が提供会員として登録されたことも、その地域で多胎育児をしながらサポートをお願いしたい方にとっては本当に心強いことかと。実際の現場では、アドバイザーさんの存在を軸に、提供会員さんが、依頼会員さんの子育ての良き相談者となったり、お子さんたちに寄り添いながら活躍されているのだろうなとも想像できました。

1994年に旧労働省によって、スタートしたというファミサポ事業。社会情勢や家族の在り方、地域性、子どもたちを取り巻く環境が刻一刻と変わっていく中で約30年に渡る相互援助活動を地域と連携し合いながら継続しているそうです。現在は会員登録方法のDX(デジタルトランスフォーメーション)化も進めているとのことで、今後は、依頼会員の利用しやすさと同時に、安全のための講習や研修の更なる充実などにも期待したいところです。

■ヘレン桜さんX https://twitter.com/pHVZn5SJP1UlKnq

■女性労働協会 ファミリー・サポート・センター事業 https://www.jaaww.or.jp/family-support/famisapo/

■こども家庭庁 ファミリー・サポート・センター https://www.cfa.go.jp/policies/kosodateshien/family-support/

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