「失われてからでは手遅れ」
かんなの薄削りなどで鍛冶文化を広げる活動を続け、主催する市川金物の専務でもある市川さんに、開催の狙いや「五感」を刺激する当日の企画を教えてもらった。
鋼をたたいて延ばす鍛造による刃物製作は日本独自の技術で、切れ味の良さは世界一だ。しかし、成分を細かく調整する必要がある材料の鋼が、メーカーへの外資参入による合理化などで調達が難しくなっている。鍛冶職人の後継者不足に加え、道具を扱う側の職人も減少が続き、技術継承は危機的な状況だ。
「失われてからでは手遅れになる」と思い、技術や製品の素晴らしさを全身で感じてもらうイベントで、文化をつないでいくきっかけがつくれればと考えた。
当日は迫力ある殺陣や繊細な彫金、ティッシュペーパーの半分の薄さのかんなくずなどを見てほしい。それぞれの動作に独特の音があるし、ヒノキの香りも楽しめる。
かんなで削った木肌はツルツルで水をはじき、神社仏閣など木造建築を長持ちさせている。うまく研いだ包丁で切ると食品の組織がつぶれず素材の味が生きる。切れ味の悪い包丁を使ったものと食べ比べれば違いを分かってもらえる。
刃物の分野では産地ごとのイベントはあっても、各地の技術や製品を集めたイベントは例がない。家族で訪れて伝統にじっくり触れてほしい。