先日開かれた西武ライオンズOBによる特別試合で、御年80歳のレジェンド・土井正博さんがライト方向への華麗な流し打ちを披露したことが話題になっている。そんな中、5年前に土井さんから打撃を教わったという元高校球児がXにエピソードを投稿。公園で素振りをしていた時に偶然通りかかった土井さんに声をかけられ、それを機に打撃が開花したという。元球児は「心から感謝しています」と話している。
ただの「おせっかいなおじさん」かと思ったら…
投稿したのは、大阪府内に住む大学4年生の藤岡大葵さん(22)。大阪・興國高校で野球に打ち込んでいた5年前の出来事だ。2年生も終わりに近づいた時期の早朝、学校近くの公園で同級生と2人でバットを振り込んでいたところ、散歩中と思しき男性からいきなり「何番打ってんの?」と話しかけられた。「いえ、ぼく全然補欠なんで」と藤岡さんが答えると「本当か。そんなに良いスイングをしているのに」と言われ、打撃指導が始まった。
「正直、ただのおせっかいなおじさんかと思っていて…」。最初は話半分にアドバイスを聞くつもりだったが、課題だと自覚していた下半身の使い方についてピンポイントで指摘され驚いたという。さらに、男性の「バランスボールを両手で抱えて遠くに飛ばす感覚でスイングしてみて」との指導通りバットを振ると、一気にそれが改善された手応えがあった。
だんだん藤岡さんも前のめりになり、男性はスイングを見ながら「そうそう」「ちゃう、もうちょっとこう」と微修正を重ねてくれ、的確な指導に驚かされた。隣の同級生も最初こそ「何か絡まれてるわ」といった様子だったが、途中からは直立不動になり真剣な表情で男性の言葉に耳を傾けていたそうだ。指導は20〜30分ほど続いた。
正体は…通算2452安打のレジェンド
男性は高齢には見えたが、体つきががっしりとしていた。ただ者ではないかも…と思いつつ「めっちゃ良いアドバイスを頂けました」と感謝を伝え雑談していると「俺清原とか教えてたからなあ」と言われ、思わず「え?」と聞き返したという。「俺、土井っていうて西武でコーチしてたんやで」と自己紹介された。
藤岡さんは土井さんの現役時代のことを知らず、「プロ野球のコーチ」だったことに驚いたが、土井さんが去った後にスマートフォンで「西武 土井」と検索し、通算2452安打、465本塁打、本塁打王1回、ベストナイン3回…といった現役時代の偉業を知ってさらに驚いた。野球部の指導者たちに「さっき西武の土井さんにバッティングを教えてもらった」と伝えると「お前、ほんまか」と腰を抜かされたという。
それ以降の試合では「ヒットが止まらなくなった」と話す藤岡さん。それまで積み重ねていた練習が土井さんの助言が加わったことで結実し、一気に引き出しが増えた感覚だった。伝授された「バランスボールを投げる感覚」を応用することで、変化球や苦手としていたインコースの球に対応できるようになったという。結果、練習試合などを含めた高校での通算打率はなんと4割を超えた。
「土井さんのおかげで自信取り戻せた」
興國高校の選手層がきわめて厚い(当時の部員は約140人)こともあり、藤岡さんが卒業までに公式大会でベンチ入りできたのは一度きりだった。それでも「打てるようになったことで野球が楽しいともう一度思えた」と笑顔で振り返る藤岡さん。実は、もともと特待生として入部したものの1年生の夏に大怪我をし、長期のリハビリで遅れをとったことで当時は焦っていた。復帰後も調子が出ず自信を失くしていたさなか、この出来事があったという。「何よりも、土井さんに良いスイングをしていると言っていただけたことで『俺やっぱりやれるかも』という自信になった」と話す。
3月16日に開かれた西武ライオンズOBによる特別試合「LEGEND GAME2024」では、土井さんが現役時代さながらの打撃フォームで見事な流し打ちを披露し、SNSで動画が拡散され話題になった。動画を見た藤岡さんは「やっぱり土井さんはすごい」と感激したといい、5年前のエピソードをXに投稿した。すると2万件近い「いいね」が寄せられ、「すごい、うらやましすぎる」「通りすがりの神だ」「清原も師事した名伯楽に教えてもらえるなんて、貴重な体験」と大きな反響があった。
藤岡さんはこの春大学を卒業。社会人になっても草野球チームに入ってプレーを続ける予定だ。「苦しんでいた中でもう一回野球を好きになれたし、こうして今も続けられている。土井さんとの偶然の出会いがあってこそ」と藤岡さん。「もし今回の投稿がご本人のお耳に届くことがあれば『あの時は本当にありがとうございました』と感謝を伝えたいです」と話している。