ステージも客席も真っ暗にし、漫才を楽しむ「バリアフリーお笑いライブプロジェクト 耳で楽しむ漫才ライブ」が3月16日、新潟市内で開かれる。出演はナイツやウエストランドら6組で、初開催。視覚障害者もそれ以外の人も一緒にライブを楽しむ。主催のイベント会社代表に、企画に込めた思いを聞いた。
イベント前半は通常の明かりで漫才ライブを開催するが、後半では舞台と客席を暗くして出演者が漫才を披露する。舞台袖から漏れる光すらも遮断されており、会場はまさに“真っ暗闇”。出演者も登場時、サンパチマイクに貼られた蛍光テープのわずかな光を頼りにステージの中央を目指す…そんな状況だ。企画した新潟市のイベント会社「ホイミ」の齋藤桂代表(45)は「こういった主旨・演出のお笑いライブはおそらく全国初」と話す。
登場する漫才師はナイツ、ウエストランド、三四郎、三拍子、きしたかの、キュウの6組。動きやビジュアルよりも言葉のやり取りで笑いを取るタイプのコンビに、齋藤さんがオファーをかけた。
各コンビが前後半で1回ずつ登場する。披露するネタについては一任しているが「視覚障害者には色に関する表現が伝わりにくい可能性がある」「有名人の名前は知っていても顔やビジュアルは分からないかも」といった留意点は伝えてある。ナイツの2人とはすでに打ち合わせをしたというが、イベントの主旨に賛同しつつ「どんなイベントになるのか予想もつかない」と楽しみにしている様子だったそうだ。
視覚障害者の弟の存在
齋藤さんは20代の頃、東京の大手芸能プロダクションでお笑い芸人やタレントのマネージャー業を経験。31歳の時に実家の米農家を継ぐため新潟にUターンし、今は農業にキッチンカー、イベント業など幅広く手掛ける。これまでお笑い芸人や落語家らをたびたび新潟に呼び寄せ、イベントを成功させてきた。
そんな中で「もっと幅広く人を楽しませたい、イベントで何か社会貢献ができないか」と考えるように。頭に浮かんだのが齋藤さんの1歳下の弟のことだった。生まれつき右目が見えず、左目も弱視の視覚障害者だ。弟は農作業の手伝いに来てくれる際は肌身離さずラジオを持ち歩いており、家でもずっとラジオを聞いていた。
そこで「落語をラジオやCDで楽しめるように、漫才を耳で楽しむ企画はできないか」と思いついた。通常の漫才ライブに視覚障害者の方を招待しても、今までと変わらない催しになってしまう。「障害者の方に向け、障害者の方の世界で、お笑いライブをやろう」「障害者の方以外にも、障害のことを考えるきっかけにしてもらおう」、そんな思いで企画を立ち上げた。
「もちろん視覚障害者と一言で言ってもさまざまな見え方があるが、最も程度が高い全盲の方も気兼ねなくお笑いを楽しんでほしい、という思いで企画した」と齋藤さん。ポスターのキャッチコピーは「見えても、見えなくても。」「同じ場所で笑おう。一緒に笑おう。」とした。
当事者から感謝の声
視覚障害者と介助同伴者は無料招待し、収益の一部は新潟県視覚障害者福祉協会に寄付する。イベントの準備を進める中で、同協会の当事者らからも話を聞いたが「これまで一般向けのイベントに興味がわいても、目が見えないと楽しめないのではないかと躊躇してしまった」「見えなくても楽しめる、と打ち出してもらえるイベントはとてもありがたい」と感謝されたという。
また「過去にイベントに行く際会場までのアクセスに不安を感じた」という声を参考に、大型バス2台を借りて無料で駅から送迎することに。会場内にも案内や誘導を担うスタッフを配置する。現時点で視覚障害者らからの申し込みが100席分を超えるなど反響が大きいという。無料招待枠は、席がある限り拡大する予定だ。
一方、一般チケットの売れ行きは「苦戦している」とし、約900席のうち300席ほど空席があるという。齋藤さんは「テレビやユーチューブでは見られない、誰も経験したことがない演出のお笑いライブとして楽しんでほしい」と呼びかける。
今回のライブは「バリアフリーお笑いライブプロジェクト」の第1弾と位置付けており、今後も聴覚障害者向けの「目で楽しむお笑いライブ」などさまざまな構想を考えている齋藤さん。クラウドファンディングなどで資金調達しつつ、次回開催へとつなぐ努力を続ける。齋藤さんは「うちは新潟の小さなイベント会社ですけれど、バリアフリーのエンターテイメントが全国へとさらに広まるきっかけにしたい」と話している。
■ 耳で楽しむ漫才ライブ
日時:2024年3月16日(土)16:00開演 18:00終演予定
会場:新潟市巻文化会館
料金:全席指定5000円(※視覚障害者と介助同伴者1名は無料招待)
チケット:ローソンチケットなどで販売中
後援:新潟市、新潟県視覚障害者福祉協会、新潟市社会福祉協議会など
ホームページ:http://hoimi.co.jp/archives/1280