犬や猫の飼い主を探す「譲渡会」が京都市のとある場所で盛んになっている。雨風がしのげる上、広く、大勢が集まる譲渡会にぴったり。しかも、命の大切さを感じさせるような空間でもあり、京都らしさも漂う。記者が足を運んだ。
2023年11月中旬、右京区の妙心寺塔頭(たっちゅう)長慶院の広い客殿に、野犬や繁殖を終えた犬などが集まった。柵の中に数匹が入り、愛くるしい表情を見せた。奈良県などから足を運んだ参加者は、これまでの自らの飼育歴を伝えつつ、引き取りを検討する犬の性格などを愛護団体の関係者らにたずねた。
同院での譲渡会は2022年春にスタート。主催する愛護団体「LEBEND.RESCUE(レーベント・レスキュー)」代表の田中美由紀さん(41)=東山区=が相談し、小坂興道住職の快諾を得た。
田中さんによると、屋外でテントを張って雨風をしのげるようにして譲渡会を開いても、「動物虐待だ」などと陰口を言う人がいるという。屋内の寺で開けるのは「非常にありがたい」と喜ぶ。
由緒ある寺で開くメリットも考えられる。「寺には格式があり、飼うことをしっかり考えた人が来てくれる。虐待のために引き取ろうとすることを抑制する効果もあるのではないか」と推測する。
小坂さんは「ペットの命を軽んじるような生き方は多くの場合、幸せになりにくいのではないか」との考えを示しつつ、「寺が持ち味を出しながら、社会にとって、さまざまな角度から関わって貢献したい」と語る。
下京区の因幡堂(平等寺)では「京都縁の会」が17年から譲渡会を開いている。開催に協力する大釜諦順住職(69)の妻眞照さん(66)は、野良猫に不妊・去勢手術を施す「TNR」に携わるなど、愛護に理解が深い。眞照さんは「命がつながり、幸せになってほしい」と話す。
「仏教と愛護の親和性は高い」。こう指摘するのは、18年から譲渡会が開かれている下京区の浄土真宗本願寺派一念寺の谷治暁雲住職(51)。浄土真宗などで重要視される経典には、阿弥陀仏は、跳びはねる虫などを指す「蜎飛蠕動(けんぴねんどう)」のたぐいも救うと記されているという。
犬や猫に優しい福祉社会は平和にもつながると信じる。「平和が福祉をつくるのではなく、福祉が平和をつくる」と強調する。
谷治住職は寺での譲渡会が市内で広がっているのを歓迎する。「素晴らしいことで、ぜひやるべき」と促す。檀家(だんか)が反対する懸念もあるが、「住職が強い意志を持ち、必要性を説けるかが重要だ」とする。
一念寺で譲渡会を開いている団体「Pawer.(パワー)」の大西結衣さん(37)によると、これまでに約60匹の主に猫を譲渡したという。大西さんは「お寺での譲渡会は京都が全国でも多い」としつつ、寺で譲渡会を開く動きは今後も増えそうだと見込む。
寺はコンビニよりも数が多く、地域に根付いた存在。寺のあるコミュニティーごとに譲渡会を開く動きが出れば、各地域で愛護への理解が深まっていく。「お寺での譲渡会がこれからも広がってほしい」と期待する。