「フォークの背にライス」昭和によく見た食べ方、正しいマナーなの? 「親に覚えるよう言われた」「効率悪い」

金井 かおる 金井 かおる

 昼下がりの洋食店で懐かしい光景を目にしました。80代ぐらいの男性がナイフとフォークを器用に操り、平皿のライスをフォークの背にのせ、口に運んでいたのです。昭和の頃によく見た食べ方。最近ではめっきり減ったような。そもそもテーブルマナーとしては正しかったのでしょうか。

「西洋料理にはなかったマナー」

 国家検定試験レストランサービス技能検定を運営する機関「日本ホテル・レストランサービス技能協会(HRS)」の担当者は、「私どものテーブルマナーの基本的考え方は、『これでなくてはならない』というスタンスではなく『食事の際に他の人々に不快感を与えないことを心掛ける』という考えで、イギリスやフランス、アメリカなどのマナーの違いを幅広く取り入れた内容になっております」と断った上で、プロの見解を教えてくれました。

──フォークの背にライスをのせる食べ方は、西洋料理のマナーですか。

 「ライスを主食として食べる習慣は、西洋料理にはありませんので、ライスの食べ方のマナーはなかったと思います」

──西洋のマナーではなかった。

 「お米は西洋料理では、野菜に位置付けられますので、ガルニチュール(付け合わせ)などで提供される場合が多いと思います。 しかし、マナーは時代により変遷していきますので、正しいか正しくないかは、その使い方が一般的にマナーとして浸透していっているかどうかにもかかわってくると思います」

──御協会ではどのように教えていますか。

 「現在HRSでは、この食べ方はしないほうが良いと考えます。HRSのテーブルマナーでは、フォークの背を使う食べ方は否定はしませんが、同席者に不快感を与えないようにするため、また、スマートに食事をするためにこの食べ方はしないほうが良いですよと、お伝えしています」

──フォークの背にライスをのせない方がいい理由は。

 「フォークを使って口に料理を運ぶ使い方は、食材を刺す、フォークの腹(くぼみ)に食材をのせる、の2つの方法が通常の使い方だと思います。フォークの背にのせると、不安定で食材を落としてしまいやすくなると思います。マナーの基本に、同席する方々に不快な思いをさせないようにするという考え方があります。これを基本に考えますと、フォークの背にのせる食べ方は、不安定な食べ方で同席の方に『料理をこぼすのではないか』という不安感を与えてしまうのではないでしょうか。また、この食べ方を否定する方に不快感を与えてしまうことも考えられます」

──それでは平皿で提供されるライスのスマートな食べ方は。

 「食べ方としては次のようなフォークの使い方をおすすめしています。 西洋料理では取手のない器(平皿)を持って食事をする食べ方はマナー違反とされますので、平皿を置いたまま、フォークの腹(くぼみ)の上にライスを適量、フォークからこぼれないぐらいの量をのせて口へ運びます。ライスを盛った平皿は通常、左側に置かれます。フォークを右手に持ち替えて使うと食べづらいので、左手でフォーク使います」

「1970年ごろには浸透していました」

 では、フォークの背にライスをのせる食べ方は、いつ頃から、何をきっかけに広まったのでしょうか。

 担当者は「はっきりしたことはわかりませんが、1970年ごろには、すでにこの食べ方が浸透していました。 しかし、この頃のフランス料理のレストラン(主にホテル)では、表立ってライスを提供するところはあまりなかったと記憶しています」。

 ナイフとフォークを使う食べ方は、明治の終わりから昭和にかけて、一般大衆に広まっていったのではないかといい、「洋食の浸透とともに、皿にライスを盛り、フォークの背にのせて食べるのが定着していったのではないか」と推察します。

 「徐々に⻄洋料理が一般人の間に広がり、洋食として気軽に食べられるようになりました。日本人の主食であるご飯と一緒に食べる料理、というスタイルが広がり、ナイフとフォークが家庭にも浸透しはじめ、日本の食文化と⻄洋の食文化の融合が始まり、気軽に洋食屋さんで外食することが一般市⺠に広がっていきました」

 HRSがテーブルマナーの内容を精査し、マナーを教える講師認定を始めたのは1971(昭和46)年のこと。

 「それまではテーブルマナーの講師を頼まれた人が、自分の経験に基づき教えていましたので、細部に違いがあり、複数の講師を受講された方が迷ってしまうことが多かったようです。ナイフ・フォークの使い方を学ぶ初期のころは、国内外で欧米人と同席して食事をした方が、欧米人が使うナイフ・フォークの使い方を見てそれを取り入れて、教えていた方もいたようです。欧米人も正式なマナーを知っている方ばかりではなく、ラフな使い方をする方もいたようで、それが正しい使い方だと勘違いされたケースもあったようです」

 担当者自身、「欧米の付け合わせの豆類をつぶしてフォークの背の先にのせる食べ方を取り入れた」「欧米人がフォークに料理を刺して、刺した料理の上に付け合わせを一緒にのせて食べているのを見た人が、『フォークの背にのせて食べてもいいんだ』と思い、広まったのではないか」などの話を聞いたことがあるそうですが、「これらの説が正しいかどうかはわかりません」。

SNSの反応は「親に覚えるよう言われた」「謎マナー」

 ネット上でフォークの背にライスをのせる食べ方を検索すると、「子どもの頃、親に覚えるように言われた」「昭和のころ流行ってた」「気取ってフォークの背にご飯のせてた」などの声が。

 一方で「そんなマナー、西洋にはないはず」「外国人が聞いたら驚くマナー」「フォークの背で米食べるの日本だけでは」「昭和の謎マナー」「フォークの背とか効率悪すぎでしょ」などの反応もありました。

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