車やバイクなどの乗り物やSF映画『ブレードランナー』、アニメ『ヤマト2520』に『∀ガンダム』など、その世界観、装置など、今もあらゆるアーティストに影響を与えるビジュアル・フューチャリスト、シド・ミード。彼の生誕90周年を記念した「SYD MEAD LAB.2024展」が奈良 蔦屋書店(奈良市)で開催されている。世界的なアーティストの記念展がなぜ奈良で開催されているのか。その疑問をキュレーターにぶつけた。
学生時代に送り続けたファンレター
「中学生時代に彼の画集にのめり込み、ファンレターを送ってみたら返事が来たんです」
そう語るのは、本展覧会のキュレーターである松井博司さんだ。現在は奈良市内で料亭を営むオーナーシェフでもあり、シド・ミード研究家、学芸員でもある。松井さんはシド・ミード本人と文通を重ねる中で、高校時代から数年おきにシド氏のスタジオを訪問することになり、そこでメディアを通さず彼の豊かな人柄に惚れ込んだという。
奈良とシド・ミード 「ヤマト2520」から大和の奈良へ
「私が25歳の時に、シドが仕事で大阪にいました。奈良にも是非立ち寄ってほしかった。当時、彼はアニメ『ヤマト2520』シリーズのあらゆるデザインに取り組んでいたので『大和、ヤマトは古語で奈良のこと。是非、その目で確かめて欲しい』と説得したところ、大阪での仕事の帰りに遊びに来てくれたんです」
「東京でも展覧会を開催してほしい…という声を頂くんですが、私はミードが喜んでくれた奈良県の地なりに彼の魅力を発信し続けたいんです」
シド・ミードは宇宙人?未来人?
シド氏が現役だった60年間に手がけたプロジェクトは実に1600本に及ぶという。松井さんは言う。「彼は未来人だったかも知れない」と。
「彼のスタジオで日記や作品リストを見ましたが、3日に1本は仕上げないと辻褄が合わない凄まじい物量なんです。しかも同時に8本も並行している時期もある。非常に筆の早いデザイナーでしたが、それでも作品の量が尋常ではない」
「展示中の『PARTY 2000』という作品の習作スケッチ。ここを見てください。『未来は素晴らしい。私は行ったことがある』と書いてあるんです。このスケッチは、タイムマシンらしき乗り物をデザインしたアイデア。私には、未来で実際に見てきたという告白にすら思えるのです」
実際にシド氏の作品は、タイヤやコクピットなど外面だけでなく、細部に至るまで洗練されており、直接未来の世界を見なければ再現できないようなリアルさ、そして優雅さがある。
松井さんによると「シド、あなたは地球人じゃないでしょう?」と質問したら、彼は答えず微笑むだけだった。「未来に行ったことはあるが、秘密保持契約書にサインしたからね」とインタビューで答えたこともあるのだとか。
生活の中に溶け込むシド・ミードデザイン
取材日には、会場でクラフトビールメーカー「奈良醸造株式会社」のPOP UPストアも展開され、シド・ミード氏のアートを採用したクラフトビールも販売されていた。これは生活の中にシドの作品の力を浸透させたい松井さんのアイデアだという。
ミード氏の出身地アメリカで親しまれているIPAは、苦味を抑えたフルーティな風味を持つ。(1月8日から酒販店向け受注を開始)
松井さんは「シドの作品は常に明るく豊かな未来デザイン。コレクターは一度原画を手に入れたら公開することは稀ですが、作品はみんなに見られてこそ。私はこれからもNo.1ファンとして、彼の遺した作品から享受できるエネルギーを発信し続けたい」と話す。
オーナーシェフを務める料亭「吟」で、シド・ミードの魅力を共有できる場所づくりも構想中という松井さん。SF界の伝説シド・ミード氏の作品が間近で見られるのは今はここだけだ。
「SYD MEAD LAB.2024展」関連ページ
https://store.tsite.jp/nara/event/magazine/37617-0934041207.html
奈良醸造 SYD MEADコラボレーション「アライバル」
https://narabrewing.com/beer/arrival
©️SYD MEAD INC.,www.sydmead.com