2023年11月、通販サイトAmazonで『うちのコのぬいぐるみ』という小さな犬のぬいぐるみの販売がスタートしました。柴犬(アカ・クロ・シロ)、トイプードル(レッド・ホワイト・ブラック)、ミニチュアダックスフンド(チョコタン・ブラックタン)、チワワ(クリーム・ブラックタン)、フレンチブルドッグ(パイド・ブリンドル)と人気の5犬種12色がラインアップ。付属のネームプレートに名前を書けば、いつでもどこでも一緒に行ける「うちのコ」になる、というわけです。
このぬいぐるみ、どこかで見たことがあるような……そんな気がしてなりません。それもそのはず、ウェブサイトからダウンロードして誰でも使用できるフリー素材を提供する『いらすとや』が原画を手掛けているのです。いらすとやが提供するイラストは動物に限らず、人、食べ物、建物、楽器…と実に多種多様。温かみのあるイラストは皆さんも一度はどこかで目にしたことがあるはずです。
それこそが、ぬいぐるみを制作・販売している株式会社レインボーペット代表・加藤武彦氏の求めていたものでした。
「イラストもぬいぐるみも“クセ”が強すぎると好き嫌いが分かれます。誰が見てもかわいくて、でも個性的で、将来的には犬以外のぬいぐるみも作りたいので、猫もうさぎもなんでも描ける、というデザイナーさんを探していたとき、いらすとやさんに出会ったんです」
この人しかいない!そう考えた加藤さんは、いらすとやを運営するイラストレーター・みふねたかし氏にメールで打診。加藤さんの想いに共感したみふね氏は快諾してくれ、ぬいぐるみのベースとなるイラストを描いてくれました。
ぬいぐるみで笑顔に
加藤さんの“想い”とは、ただただ「動物好きの人に喜んでほしい」というもの。ペットを飼っている人、飼っていた人にはその子の名前をつけて、飼いたいけれど飼えない人には好きな名前をつけて、いつも一緒にいることで笑顔になってほしい。みふね氏はもちろん、イラストを立体化する上で尽力してくれた人たちも皆、同じ想いを共有してくれました。
そもそも、加藤さんにその想いを抱かせたのは大阪の実家で飼っていた柴犬・TEX(テックス)。阪神淡路大震災で被災した元保護犬で、動物保護団体『アニマルレフュージ関西』(ARK=アーク)にいた何百頭という犬の中の1頭。施設を訪問した加藤さんのご家族が、たまたま散歩から戻って来た柴犬に目を留め迎えたそうです。
「アークの方には『この子は人間不信だから飼いづらい。やめたほうがいい』と言われました。でも父と妹は『これも縁だから』と決めたんです。実際、TEXには虐待の跡のようなものもあり人を怖がっていましたが、家族はとてもかわいがり、私が帰省するたび実家には柴犬グッズが増えていました」
構想20年で想いがカタチに
当時から「手軽に買える愛犬のぬいぐるみがあればいいのに」と思っていた加藤さんですが、実現までには20年以上を要しました。その間、勤めていた玩具メーカーで出した企画はボツになり、09年にはTEXが他界。翌年、英語教育業界に転身すると、「テックス」のニックネームで人気講師となり、12年には「TEX加藤」の名で英語資格対策書籍を執筆して、220万部を売り上げるベストセラーになりました。
「いろいろなカタチでTEXに助けてもらいました。そして2016年に父が他界したとき、ぬいぐるみへの気持ちが再燃したんです。父の棺には市販のぬいぐるみを入れましたが、『これが“TEX”なら虹の橋の向こうで一緒に散歩できるのに』と」
オーダーメイドは高額になるため、共通のデザインでネームプレートを付けることを思いつき、先述のみふね氏のイラストにたどり着いたのです。平面のイラストを立体化するのは想像以上に難しかったようで、筆者が見せてもらった試作品も原画とかなり違いましたが、22年にようやく納得のいくぬいぐるみが完成。23年、加藤さんは前職を辞めて株式会社レインボーペットを設立し、本格的に『うちのコのぬいぐるみ』の販売を始めました。
「ペットロスに悩んでいた方が、外へ出るきっかけになったと言ってくださったり、家で飼えないお母さんと娘さんが2つ購入してくださったり。今後、より多くの方に手にしていただき、うちのコのぬいぐるみを持っている人同士が繋がる、それで会話が弾む、そんな風になってくれるとうれしいですね。ぬいぐるみはTEXの恩返し、TEXへの恩返しだと思っているので、利益が出たら動物たちのために寄付をするつもりです」