津波5m近く来ていた?「震度7」大津波警報の志賀町の漁村に残る爪痕 超高齢化で人手足らず「報道なく気付かれないままに」懸念

広畑 千春 広畑 千春

 1日に発生した能登半島地震で、最大震度の震度7を記録し大津波警報が出されていた石川県志賀町。北部の漁村には予想された5mに迫る津波が押し寄せたとみられ、海沿いの民家の脇に大量のゴミが打ち上げられている。浸水や人的被害はなかったものの屋根瓦が落ちたり土壁が落ちたりしている家も多いが、漁村のある地区の高齢化率は60.7%に達し、ブルーシートを張るにも「人手がない」という。

座っていられない揺れ、目の前のストーブにもたどり着けず

 海と山に挟まれた県道沿いの狭い地域に黒瓦の木造住宅が整然と並び、独特の景観を作りだしている赤崎地区。2020年度国勢調査によると、同地区の世帯数は90世帯。高齢者の単身や2人暮らしが多いというが、茨城県土浦市から移り住み、築80年を超える古民家で民宿「まひるのつき」を営む古川理香さんによると「隣近所もお互い顔見知りばかり。団結力が強く、地震発生からも交代で水をくみに行ったり声を掛け合ったりしている」と話す。

 地震発生時は屋内にいて、突然「座っていられないほどの揺れ」に襲われた。体が揺れて浮いて、目の前にある石油ストーブを消しに行きたいのにたどり着けない。「自動消火装置で消えていたとはいえ、一歩間違えば火災になっていてもおかしくなかった。今も怖くて石油ストーブは付けられない」と振り返る。

 揺れが収まると外に出た。津波警報が鳴り響く中、隣近所のお年寄りらに声を掛けながら高台の避難所に逃げ、自身は車の中で一夜を明かした。

押し寄せる津波「もういいから」と避難諦める高齢者も

 大津波警報で予想された津波の高さは5m。2日朝に津波注意報が解除されたため家に帰ると、コンクリート製の波返し(高さ約1m)の隙間から波が流れ込んだ痕があった。海が目の前にある自宅兼民宿は海抜4m。海岸には離岸堤にテトラポット、波返しで3重に守られているが、津波はそれを乗り越えてきたとみられ、波返しと住宅の間には大量のゴミが残されていた。

 「冬の能登外浦は大陸寒波で信じられないほど荒いのに、1日は珍しく穏やかで『いいお正月だね』なんて、朝にみんなで話していたんですが。普段みたいに大荒れだったらもっと大きな被害が出ていたかもしれません。私が聞く限り浸水被害はなかったようですが、足が悪くて動けないお年寄りの中には『もう、私はいいから』と避難しない人もいたそうです。この程度で済んだのは不幸中の幸いだった」という。

 一方で、市街地に通じる山側の道は地割れが酷く、車での移動は難しい。「能登瓦」と呼ばれる重い瓦が落ちたり、土壁が崩れていたりする家を何軒も見た。役場が配布するブルーシートも数が足りていないというが、そもそも地区の「働き盛り」は70代。余震が断続的に起きる中、人手も足りず、屋根の上で作業をするにも危険がつきまとう。

 それでも「元々ポジティブな人たちだから、『お正月だったから食料を多めに買っておいて良かった』と言うぐらいなんです」と古川さん。「それに、皆さん忍耐強く遠慮深いから、たとえ大変でも声を挙げることがなく、『大丈夫、大丈夫』と。被害が大きくない場所は報道されることもないけれど、能登は高齢化が進んでいる地域が多く、復旧・復興には、絶対的に人手が足りないのに、気付かれないままになるのでは…」と懸念する。

目立たない場所の被害気付いて。そして「また来て」

 同じく同地区で古民家宿「TOGISO」を営む佐藤正樹さんは、X(旧Twitter)で1日、「息の長い支援のためふるさと納税をしませんか」と呼びかけ、続けて2日にはこうつづった。

 「能登への支援をお考えの方へ。地震が落ち着いたら、能登へ旅行に来てください。遠いですし、立派な観光地があるわけではないですが、人と自然と飯が最高です。ちょっと昔の暮らしを味わえて、生きてるなーって感じがします。お越しになる前に色々と整えておきます。必ず来るってわかってたらもっと頑張れるので、どうか宜しくお願いします」

 投稿には「必ず行きます」など、国内外から多くのリポストと2.1万いいねが寄せられている。

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