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「誰でも、誰かのサンタになれる」 作家が本を推薦、寄付呼び掛け「作家サンタ」発足、今村翔吾さんの思い

京都新聞社 京都新聞社

困窮家庭の子どもへ寄贈を受けた本をクリスマスに届けるNPO法人チャリティーサンタ(東京)の「ブックサンタ」事業。大津市在住で京都府木津川市出身の直木賞作家、今村翔吾さん(39)が発起人となり、作家が本を推薦する「作家サンタ」の活動が今年から加わった。「子どもの頃の本との出会いは人生を変える影響力がある」。今村さんは読書が子どもの可能性を広げると信じ、協力を呼びかけている。

ブックサンタ事業は、寄付者が18歳までの子どもに贈りたい本を加盟書店やオンラインで買い求め、NPOが募集したボランティアのサンタクロースがクリスマスに子どもたちへ手渡す。2017年に始まり、新型コロナウイルス禍に困窮家庭への注目が集まったことから、20年には年間目標の2倍にあたる2万冊が寄付され、軌道に乗った。

NPO代表の清輔夏輝さん(39)が今村さんに出会ったのはその翌年だった。今村さんがコメンテーターを務めるテレビ番組で、ブックサンタの活動が紹介されたことから交流が始まり、「作家サンタ」の立ち上げが決まった。

初年となる今年は今村さんや黒柳徹子さん、北方謙三さんなど10人の著名作家が推薦人に名前を連ねた。1人1冊ずつ推薦しており、寄付者が本選びに迷った際に参考にしてもらう。

今村さんの推薦本は山田風太郎の「甲賀忍法帖」。「異能バトル」の先駆けとして世界中のアニメやゲームに影響を与えている小説だ。「時代を超え、時代を作った感動を味わえる。いつか自分の作品もそうなりたい」と希望を込めた。「届いた本が面白くなかったら最後まで読まなくていい。10年後の感想は違うかもしれない。手元に置いておくことで読んだ当時の感覚を思い出し、自分の変化も感じられる」と話す。

「収入が少なく、クリスマスも含めイベントにお金をかける余裕がありません。1日1食の日もある中、子供たちには我慢をさせてしまっている日々、クリスマスにだけは思い出に残るような日を過ごさせてあげたいと思い、応募させていただきました」

切実な声がNPOに届く中、今村さんは「推薦するだけでなく、作家だけで1万冊を集めたい」と将来を見据える。

今村さんは作家業に入る前は滋賀県近江八幡市などでダンス講師として働き、本を買う余裕のない家庭も多く見てきた。家出を繰り返す生徒の女子高生を何度も車で迎えに行ったことも。一人親で学費が足りず進学に悩む彼女を、「夢を諦めるな」と励ましたところ、「翔吾君だって諦めてるくせに」と返された。この経験が執筆に取り組むきっかけとなった。だからこそ、子どもたちが挑戦できる機会を守る大切さを訴える。

今村さんのサンタにまつわる思い出は、父親とのエピソードだという。小学5年生の時、弟のクリスマスプレゼントを買うために父親とおもちゃ屋に向かった。道中で父親に「おまえはもうサンタはいないと分かっているよな。おまえも今日からサンタになれる」と言われた。この言葉が、プレゼントをもらう以上にうれしかったそうだ。

本の寄付はクリスマスイブの24日まで。今村さんは「誰でも、誰かのサンタになれる」と信じ、子どもたちに物語を贈る輪が広がることを強く願っている。

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