あと1週間、あと数千万円 品川ヒロシ「ビッグバジェットは映画愛」 監督業を15年続けられた理由とは

磯部 正和 磯部 正和

 お笑いコンビ・品川庄司としてデビューした品川祐は、品川ヒロシとして作家・映画監督としての一面も見せる。2009年に長編映画『ドロップ』を世に送り出してから約15年の歳月が流れた2023年、『ドロップ』と同じジャンルの不良映画『OUT』を完成させた。お笑い芸人と文化人という二刀流。品川監督にとってこの15年間とはどんな時間だったのだろうか。

 芸人として考えると、映画を撮るというのはリスクが大きい

 1995年に東京NSCで同期だった庄司智春と「品川庄司」を結成し、お笑い芸人としてキャリアをスタートさせた品川監督。一方で、執筆活動や短編映画で監督を務めるなど、表現者としての活動も並行して行い、2009年には自身が執筆した小説「ドロップ」の監督・脚本を務め長編映画監督デビューを果たす。

 その後、『漫才ギャング』『サンブンノイチ』『Zアイランド』『リスタート』と監督作品を重ね、最新作『OUT』の公開で、映画監督として15年というキャリアになった。品川監督は「自分が監督した作品を面白いと言っていただけるのはうれしいですが、批判ももちろんありました」と振り返り、「ただダメだと判断されてしまえば、撮ることができない。その意味で15年間撮り続けられたというのは、映画に愛情は注げたのかなと思っています」と総括した。

 それでも品川監督は「映画監督だけをしていたら食べられなかったかもしれない。常にそう思いながらやっていました」と述べ「日本ではなかなか映画監督だけで食べていける人は少ないんじゃないですかね。どこかの会社に属して、映画とは違うものを撮ったりしている人の方が多いと思うんです」と語る。

 お笑い芸人としてキャリアをスタートさせ、今も芸人としてメディアに出演し、「品川庄司」としての活動も続けている。ワークバランスはどのように考えているのだろう。

 「芸人という立場からすると、映画を撮るということはリスクが大きい。僕の場合撮影に入ると、その期間は芸人としての仕事をしないわけです。撮休が週に1回あったとして、そこで芸人の仕事をしても、月に4日間ぐらい。長い撮影だと4か月ぐらいあるので、その間まったく芸人の仕事をしなければ、自分の席なんてすぐになくなってしまう。次から次へと新しい才能は出てきますから。それは『ドロップ』や『漫才ギャング』のときからありました。でもそれに勝る魅力が映画にはあります。やっぱり撮り続けていきたいです」

 常に見ている先は「映画の世界」

 映画の魅力にほだされているという品川監督。一番楽しいのは「編集作業」だという。「全部そこに向かってやっている感覚。プラモデルに例えると、脚本って設計図で、撮影がパーツを集める仕事。それを組み立てる仕事が編集かなと。もちろん、脚本を書いているときはテンション上がるし、撮影現場も楽しい。でも集大成が編集。僕はその時間が一番好きです」

 作品が完成すると、「次へ」という気持ちになる。もちろん「ヒットしなければ次に繋がらないので」と結果は気になるが、それでも頭のなかは次回作を撮ることでいっぱいになる。常に見ている先は「映画の世界」だという。

 『OUT』公開前だが、すでに次回作は決まっている。40代のとき「目標」に掲げていたハリウッドでの映画製作が現実となった。このインタビュー直前までアメリカで打ち合わせをしていたという。「まだまだ先が決まっていないと、もう無理なのかな……と思ってしまう。その意味で、常に次に繋げられるようにという思いはあります。どんなジャンルでも挑戦していきたいです」

限りがないのが映画の魅力

  映画の魅力について「限りがないこと」を挙げる。「バジェット(経費)が思う存分使えたらいいなと思うんです」と品川監督。突き詰めれば突き詰めるほど、貪欲になるのが映画の面白さであり、魔力という。

 「『リスタート』という映画は1000万円ぐらいで撮ったんです。でも『あと2日間欲しい。あと100万円欲しい』と思った。KADOKAWAさんで撮らせてもらった映画は、もう少し規模が大きかったのですが、それでも結局『あと1週間欲しい、あと数千万円欲しい』という気持ちになった。多分100億円のバジェットの映画を撮ったとしても、同じことをきっと言っているんだろうなと。今度撮影するアメリカの映画も、これまで以上にバジェットは大きなものになりそうですが、きっと『あといくら欲しい』と言うと思う」

 ビッグバジェットへの憧れはすなわち映画愛。「予算って結局は撮影期間に反映されるので、多ければ長く映画に携わっていられるじゃないですか。『OUT』もこれまで以上にアクションの手数やカット割りが多いのですが、予算があればより長くこだわれる。もっと……と何度思ったことか(笑)」。

  すべての行動が映画への愛に感じられる品川監督。そんな思いは作品を重ねるたびに強くなってきている。

 「最初のころはタレント監督という意識が自分でもあったし、周囲からもあったと思うんです。でもだんだんと作品の責任者であるからという視点になる。まずは現場でケガや事故のないようにと考えます。さらに作品に関わるプロデューサーや役者さんも映画がヒットすれば、次に繋がると考えると、背負うものが大きいなと思っています」

  映画『OUT』は11月17日より全国ロードショー

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