「最期は自宅で」コロナ禍で変化した「みとり」の風景、人生全体がひとりひとりの“物語”

京都新聞社 京都新聞社

 新型コロナウイルス禍を経て、自宅で人生の最期を迎える人が増えている。自宅死亡率は2019年には滋賀県全域で13・3%だったが、21年には18%に達した。特に大津市では、県平均を上回る21%が自宅での臨終を選んでいる。在宅医療の現場を取材した。

 「今日の調子はどうですか」。9月21日、大津市内のがん患者の男性宅を「ピースホームケアクリニック」(同市追分町)の平本秀二院長(48)が訪れた。男性の妻と検査結果を話し合い、血圧測定や触診の後、男性の不安や悩みを15分ほどかけて聞き出す。

 男性は70代。肺がんを患い、今年の春、脳への転移が見つかり、夏から在宅で治療を受けている。プロ野球観戦が趣味で、阪神タイガースのセ・リーグ優勝を自宅で見届けられたことを喜んでいた。「病院のテレビは小さいし、他の患者さんに遠慮して大きな音で見られない」。家族の希望もあり、今後も在宅医療を受けるという。

 ピースホームケアクリニックは、大津市や京都市でがんや腎不全など緩和ケアを必要とする患者の在宅医療を手がける。これまでに約390人を診療し、260人近くを在宅でみとってきた。病院に配備されることの少ない医療用麻薬投与のための皮下注射用ポンプを約10台所有し、訪問先で患者の痛みの緩和に利用する。

 開院したのは新型コロナ禍まっただ中の21年。在宅医療の需要が高まっていると考えた。県内に4人いる日本緩和医療学会が認定する緩和ケア医のうち平本院長を含む2人が所属し、精神的ケアも行う。「望む場所で穏やかに過ごすことそのものがケアになる」と在宅のメリットを話す。

 大津市では、在宅でのみとりが大幅に増えている。市地域医療政策課によると、市内の自宅死亡総数は19年度には443人だったが、20年度には558人、21年度には671人と、前年対比で100人を上回るペースで伸びている。

 ある医師は新型コロナ禍が増加の背景にあると指摘する。入院中の家族との面会が制限されたことから在宅療養を望む人が増えたほか、大津市民病院ではコロナ患者受け入れのため緩和ケア病棟を当初2カ月閉鎖したことも影響したという。

 一方、コロナ禍前から大津市内を中心に進められてきた取り組みの成果とみることもできると話す。同市では医療機関同士で連携し、在宅医療体制を整えてきた歴史がある。

 同市際川3丁目のひかり病院は、外来診療に加え、16年から在宅医療に取り組んできた。市内の二つの医院と協力体制を築き、在宅患者が緊急入院するためのベッドの確保などに速やかに対応するため、月1回会議を開いて情報交換する。

 柳橋健院長(72)が患者宅を訪れるのは、外来診療を終えた後。患者からの急な呼び出しにも応じる。ハードな勤務だが、「在宅で診るのは病気ではなくて『人』。患者の話を聞き、助けが必要な時にそばにいることを心がけている」と語る。

 在宅医療の需要が高まる一方、医療体制には課題もある。専門人材に地域差があるほか、柳橋院長は「多職種連携」の重要性を訴える。ケアマネジャーや管理栄養士と連携し、患者の生活を多岐にわたって支えることで、希望を一つでも多くかなえ、満足度の高い最期を迎えられるという。

 「治療で関わる時間だけが患者の人生ではない。人生全体を『一つの物語』として捉え、それぞれの最期に向き合っていきたい」と力を込める。

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