福島県のM家で暮らすサビ猫のななちゃんは、6歳の長男ととても仲良し。長男が生まれるとせっせと世話を焼き、大きくなってからも危ないことをしないよう見守ってくれます。長男もそれが分かるから、たくさんいるM家の猫の中でななちゃんが特別な存在です。
お母さんはこのふたりの様子を微笑ましく眺めながらも、ななちゃんとの出会いを思い出すと胸が痛みます。
高齢者の不適切飼育からレスキュー
2017年5月、お母さんは従姉から電話を受けました。彼女が施設長を務めている、デイサービスの利用者さんの自宅で猫の飼育崩壊が起きたとのこと。足の踏み場もない家の中で、猫が10匹弱過ごしているようです。
部屋の片づけや猫の里親探しはヘルパーさんが中心にしてくれているものの、どうしても1匹可愛げのない猫の貰い手が見つからない。このままなら保健所に連れていかなくてはならないと、従姉は言うのです。
この時、M家には6匹の猫がいました。当時、子どもがいなかった夫婦にとって、猫たちは我が子同然の存在です。だからこそこれ以上、増やしても良いものか…とお母さんは悩みました。そして、お父さんに相談。お父さんは悩む間もなく言いました。
「うちの子にしよう」
安心したお母さんは猫を迎えに行き、その足で動物病院へ。M家7匹目の猫だから「なな」と名付けました。これから良いことがありますようにと、「ラッキーセブン」の意味も込めています。
このななちゃんを診察した獣医師はお母さんに告げました。
「お腹に子どもがいますよ」
不妊治療をしているのに堕胎させるだなんて…
お母さんはビックリしました。ななちゃんが子猫のように見えていたからです。獣医師から産ませるかどうか尋ねられましたが、お母さんはその場で即答できませんでした。
帰宅後、お母さんは悩みました。我が子として迎え入れるななちゃんの子どもと会いたい気持ちはあるものの、実際問題、里親探しに難航するのは目に見えています。でも、産ませてやりたい。
そこまでお母さんが悩むのには理由がありました。それはお母さん自身が不妊治療を行っていたからです。3年間、子どもができないことに悩んでいました。仕事を続けながら治療を行い、月経のたびに落胆。子どもを産めない自分が、ななちゃんを堕胎させるだなんて…。
悩むお母さんのもとには、6匹の猫がかわるがわるやってきて「どうしたの？」と気遣ってくれます。この子たちの生活費や医療費も考えると、これ以上猫を増やしてはいけない。そう考えたお母さんはななちゃんに言いました。
「あなたを生涯幸せにします。お姫様になってください」
ななちゃんはきょとんとしていましたが、静かに瞬きしてくれました。
まさかの妊娠
お母さんとななちゃんは再び動物病院へ。ななちゃんの堕胎手術をするためです。お母さんは何度も「ごめんね、ごめんね」と言い、ななちゃんを手術室に見送ります。数時間経ち手術室から戻ってきたななちゃんは、少し疲れた様子でした。
帰宅後、6匹の猫たちがななちゃんを歓迎します。誰も「ふー！しゃー！」をしません。すぐ毛づくろいをし合ったり、一緒にくっついて寝てくれたり。お父さんとお母さんにもすぐ慣れ、紐のおもちゃで遊ぶと楽しいと気づきました。
ななちゃんがM家の子になり2カ月がたったころ、大変なことが起きたんです。なんとお母さんが妊娠。どうやらななちゃんを迎えたころに着床した模様。お母さんは嬉しい反面、罪悪感を抱きました。産ませてあげられなかったのに、自分は産むのかと。
そんなお母さんにななちゃんは優しく寄り添いました。お腹にぴったりくっつき、「たのしみね」と言っているかのよう。お母さんはななちゃんに励まされ、妊娠期間を乗り切りました。
静かなまばたき
2018年2月、無事に長男が誕生。ななちゃんは張り切って長男のお世話をします。お腹がすいていないかな、おむつは清潔かな。長男の乳母になったななちゃんは、長男用の椅子の座り心地を毎日チェック。変なものに座らせたらいけませんからね。長男が使わなくなっても、毎日チェックをしていました。
気づけば、赤ちゃんだった長男は来年小学生に。体はななちゃんよりも、ずっと大きくなりました。でも、ななちゃんにとっては永遠の赤ちゃんみたい。今でもせっせと長男の世話を焼きます。世話を焼かれる長男も嬉しそう。
目の前に広がる幸せな光景に、お母さんは気づきました。生涯をかけてななちゃんを幸せにすると誓ったのに、自分がななちゃんに幸せにしてもらっている。
お母さんはななちゃんに「ありがとう」と言いました。ななちゃんは静かに瞬きをしました。
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【飼い主さん】邏梛《らな》さん
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