”推しの香り”で満たされる人々 「好き」を香りにする”推しシーシャ”の世界

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「推し活」の最前線「推しシーシャ」とは?

オタクは貪欲だ。グッズの購入に始まり、イベントへの参加、コスプレ、聖地巡礼など、「推し(イチオシのキャラクターやアイドルのこと)」を各自に合った方法で目一杯楽しみ、愛そうとする。その「推し活」の一つとして「推し」の”シーシャ=水タバコ”を吸うという方法があるという。

「推しシーシャ」という単語を作り、はじめにサービスを開始したシーシャ専門店「はちグラム」代表の竜ノ介さんに話を聞いた。

水タバコ(シーシャ)は糖蜜などに漬けたタバコ葉を炭でゆっくりと加熱し、発生した煙を水の中に通してホースで吸い込む道具。タバコ葉を使っているが、煙にタバコの匂いはまったくなく、糖蜜と香料の甘くさわやかな香りが漂う。女性にも人気の趣味だ。

いまもっとも新しい「推し活」のひとつ「推しシーシャ」からは、いまの人々が抱えている悩みも見えてきた。

「推しへの気持ち」を香りに

ーー 「推しシーシャ」について教えてください。

竜ノ介 シーシャには無数のフレーバーがあり、その香りをカクテルのように組み合わせることができます。「はちグラム」では常時250種以上のフレーバーを揃えていて「推しシーシャ」は「推し」のキャラクター・作品・楽曲などをイメージしたオーダーメイドのブレンドを提供するメニューです。

ーー 香りの組み合わせで「推し」を再現するわけですね。いままでブレンドした「推し」は…?

 竜ノ介 いっぱいあって……。アプリゲームのキャラクター、配信者の方、アイドルの方、バンド、アーティスト。映画のタイトルや曲。なかにはスポーツ選手をイメージしたブレンドを頼み続けている方もいます。お客様オリジナルの一次創作のキャラクターから「推しシーシャ」を作ることもありますよ。

 ―― 「推し」ならなんでも香りに置き換えられるということですか。すごい技術です......何を手掛かりに「推しシーシャ」のブレンドを考えているのでしょうか?

竜ノ介  基本的な考え方として、香りは「トップノート・ミドルノート・ラストノート」という具合に、どのタイミングで香るかが決まっています。

ーー 香水などでよく聞く用語です。

竜ノ介 そう、アロマオイルなどのブレンドでも同じですね。それがシーシャの中ではすごく短い時間で起こっていて、「ホースを咥えて煙を吸った瞬間に感じる味や香り」「煙を吸っている最中に感じる味や香り」「吐き始めた後で匂う香り」と分かれているんです。それぞれの香りがどのタイミングで香るかを意識しながら、組み合わせていく。
作り方は「チョコレートにバナナを足せば、単純においしいチョコバナナができる!」という考え方もあれば「チョコレートとバナナをミックスすると味がこう、煙はこの順で感じるから、さらに何を付け加えるとよりリアルに、更においしくなるかな?」と考えることもあります。私は後者の方法が多いかな。
でも「推しシーシャ」はブレンドの知識と技術だけではつくれません。何より大事なのはオーダーした方の「推し」へのイメージ・気持ちです。チョコバナナと違って、アニメや音楽に具体的なフレーバーはついていないわけです。私たちがつくれるのはあくまでその「イメージ」のシーシャ。だからこそ、お客様の「推し」への解釈を理解して一緒につくりあげていく。

ーー 特定のキャラクターや作品を再現するというより、それを好きだという想いを香りで表現するわけですね。

竜ノ介  そうです。「推し」の名前・外見、印象的なシーン、キャラの性格や性癖なんかも聞いて、魅力の背景を話してもらう。その要素をもとに「香りと味」をイメージする。それぞれどの魅力をフレーバーに落とし込んだのか話してシーシャを吸ってもらうところまでが「推しシーシャ」というメニューなんです。

ーー コミュニケーションの要素がとても大きいのですね。

竜ノ介  ええ。「推しシーシャ」の楽しみ方は人それぞれで、フレーバーの組み合わせから推しの香りを想像することを楽しむ人、完成したシーシャを吸って肺を「推し」で満たして一体感を楽しむ人、推しへの思い入れを私たちにプレゼンをするのが楽しい人など、さまざまです。キャラクターに愛が深い人には「他人から見た推しがどう見えて、どういう解釈をされるか知りたい」という人もいます。だから「竜ノ介さんの解釈でつくってください!」と言われることもあるんですよ。

原点は「自己肯定感」

ーー 「推しシーシャ」をはじめたきっかけは。

竜ノ介 「はちグラム」が、オープンして9年弱、「推しシーシャ」ができたのは5年ほど前です。
もともとは「アナタ味のシーシャ、つくります」っていうメニューなんです。

ーー 「アナタ味」とは?

竜ノ介 例えば「レモングラス」というフレーバーがあります。ただ、お客様によってはイメージしているレモングラスとちょっと乖離がある可能性がありますよね。そこで「たとえ多くの人の感覚とは違っていても、“あなた”がいちばん吸いたいレモングラスを作りますよ」っていう考えが私たちの基本にあります。
2年くらい前から「自己肯定感が低い」「自己肯定感を上げる」という言葉が聞かれるようになりましたよね。僕はかなり昔から同じようなことを思っていました。皆さんにもうちょっと自己肯定感を上げてほしい、お店をやっているからには来てくれた人の素晴らしいところを伝えられたらと。
でも「あなたって優しいよね、ホントに綺麗ですよね」と言っても、言葉通りに伝わるわけじゃない。気持ち悪いと思われることだってあるかもしれない(笑)。だったら、シーシャを介して「あなたをシーシャで表現したらこんなにおいしい。だからあなたは素晴らしいですよ」という方法で伝えればどうだろう? そう考えて「アナタ味のシーシャ、つくります」っていうメニューを提供しようと決めました。

 ――  その「アナタ味のシーシャ、つくります」が「推しシーシャ」に発展したということですか。

竜ノ介 はい。実際にメニューを提供しはじめてから、お客様に「私が好きなものや好きなキャラクターの味も作ってほしいんですけど、できますか」と言っていただいたことがきっかけです。でもその時は少し悩みました。「当店が出せる味は公式では全くないし、お客様それぞれのイメージ自体を作ることになる。それが最初に意図した”アナタ味のシーシャ”のような価値を持つものになるのかな?」と疑問だったんです。
でも「推す」という行為は「自分の好きなものを肯定する」ことを通して、結果的に「自分自身を肯定する」ことに繋がる。つまり「アナタ味のシーシャ」のコンセプトに通じるんじゃないかと思ったんです。

――  推しシーシャに限らず、つくっているのは「その人が吸いたいシーシャ」なんですね。ひとりひとりに向けた竜ノ介さんの優しさ...。

竜ノ介 ありがとうございます。自分でいうのもなんですけど。ぼくね、めちゃ優しいんですよ(笑)。まあ、優しさにもいろいろあるとは思いますが。

香りで記憶に栞を挟む

 ―― 竜ノ介さんとシーシャとの出会いはどんなものだったのですか。

竜ノ介  14年ほど前に世界一周の旅に出ていたころです。立ち寄ったヨルダンで初めてシーシャを見かけました。その後に行った別の国でもカフェなどに当たり前に水たばこがあるので印象に残りました。でも正直そのときはピンと来なかった。日本人からすれば珍しいカルチャーだと思ったくらいで、別に「いいものだな」って感じはなかった。
それから日本に帰ってきて高円寺にあったシーシャ専門店「チルイン」で再会したんです。そこがすごく居心地の良いお店で、自然に通うようになって、店で働くようになって。

ーー そして自分の店を経営するまでに...。シーシャのどんな魅力に惹かれたのでしょうか。

竜ノ介 シーシャがすごく有意義なのは「ぼーっと時間を過ごす」助けになるところです。例えば、ちょっと嫌なことがあって気分転換したいときに1、2時間を単純に過ごすことってなかなかできないと思うんです。何かしようとして、逆に疲れちゃうこともある。「頭をからっぽにしてただ休む」ことって実はすごく難しい。だけど、シーシャを吸っているとなぜかそれが出来て、ちょうど1、2時間過ぎるんです。
だからちょっとだけ気分を前向きにしたり、自分を落ち着かせたりして物事がうまく運ぶようにするきっかけづくりになる。

 ―― ほかにおすすめのシーシャを吸うタイミングはありますか。

竜ノ介 人生を「セーブ」するために吸うこともあります。どういうことかというと、「香り」って脳の機能的に一番「記憶」に近いんです。香りは記憶を呼び覚ますものなんですよ。
人間って忘れていく生き物でしょう。だからちゃんとセーブしていかないと何にもない人生になっちゃうと思うんです。
だから、何か忘れたくない事があったときに、シーシャを吸って記憶と香りを結び付ける。そうやって記憶をセーブしてあげるといいかなって僕は思っています。

   ◇   ◇

「推し活」の最前線である「推しシーシャ」をレポートした。自分の人生のひとときを忘れないための「シーシャ」……まるで香りで記憶に栞をはさむようではないか。

「はちグラム」は祐天寺・高円寺・吉祥寺に店を構えている。どの店舗もエキゾチックでくつろげる空間だ。ぜひ優しい店主さんと話ながらシーシャを通して「推し」や自分をもっと好きになるきっかけにしてみてはいかがだろうか。 

   ◇   ◇

【取材協力】
「はちグラム」代表 竜ノ介
 店舗:はちグラム 祐天寺店・高円寺店・吉祥寺店
 営業時間: 12:00〜24:00
▽HP
http://shisha-8g.com/
▽ X(Twitter)
@8g_shisha

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