「自分の半生を振り返ってどう思うか?…ただただ運が良かった、そのような感覚で捉えています」
角界を振り出しに足立区のスーパーの店長を経由して、インド、中国、そしてハリウッドへ。ボリウッドスターのサルマン・カーンと共演したかと思えば、プロテニスプレイヤーのノバク・ジョコビッチと相撲を取ったことも。
ついにはキアヌ・リーブス主演の映画『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(9月22日公開)でハリウッド映画デビュー。東桜山のしこ名で活躍した元大相撲力士で俳優の田代良徳(47)の半生、というか力士引退後のセカンドライフはあまりに目まぐるしく華々しい。
引退直後は精神的に病む
「相撲引退後の活動については、自分でも“気持ち悪い!”と思うくらい色々なことができています。ほかの人が見たらうらやましく感じるかもしれません。僕は7年前までは足立区のスーパーの店長でした。そんな男でもちょっとしたきっかけで世に出られる。今はSNSですぐに世界と繋がれる時代。どんどん世界に目を向けて視野を広げていくべきです。それを自分が体現しているつもり」
インドを歩けばサルマン・カーンと共演した相撲レスラーとして群衆に囲まれ、インドの国民的コメディアンと共演したインド映画『SUMO』では準主役級。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』では用心棒役で真田広之と初共演した。
SUMO actorとして世界を股にかける活躍は、まさにセカンドライフの成功例だが、角界を離れた当初はアスリートの第二の人生の構築の難しさを痛感したという。
「相撲引退直後は精神的に病みました。これまで乗って来たレールがなくなり、目標も夢もなくなる。“力士”という肩書がなくなった途端、俺は何者?と思い詰めたりして。特に僕の世代は文武両道と言いながらも、相撲だけをやっておけばOKという相撲バカを育てる環境にありました。そこからいざ社会に出たとしても、それまで相撲しかやってこなかったわけですから。普通に働くなんて無理な話です」
1日1万円を稼ぐことの大変さ
立ちはだかる一般社会という壁。田代は未知なるものへの挑戦を自分に課すことで、新しいレールを探そうとした。
「何かに誘われたとしたら、犯罪ではない限りとりあえず挑戦する。チャンスかな?と少しでも思ったら動く。それで失敗したとしても何らかの学びはあるはず。インドから依頼が来た時も“とりあえず行くか”と。そこから徐々に置かれた状況も自分自身も変化していきました」
見失った夢や目標を新たに探すこともさることながら、後進の道標になるという責任感もワールドワイドな活動を支える力の源になった。
「これは相撲に限った話ではなく、スポーツマン全般に言える問題だと思います。スポーツ選手は浮世離れした世界に長年浸ってきたわけですから、机の前で1日8時間座っていられるわけがない。1日1万円を稼ぐことの大変さから教えていかないといけない。それ以外にも税金、保険など一般常識を身につけなければ生きてはいけません。僕ら引退して外の世界に出た人間が後輩たちを誘導してあげないと」
目指せ革命的減量!?
インド映画、そして中国映画に出演した後、「ならば次はハリウッドか!?」と冗談を飛ばしていると、本当に『ジョン・ウィック:コンセクエンス』のオファーが舞い込んだ。果たして次に向かうところは?
田代は「これ以上望むものはないです」と謙遜する一方で「いや、ライザップのCMに出て史上最大級の減量でダイエットの革命児にでもなろうかな?今180キロなので人間2人分くらい消したら話題になるだろうし、自分の健康的にもいいから」。トリッキーなレールを見つけた田代の挑戦の日々はまだ続く。