公園や歩道などへの車の進入を防ぐ、ステンレス製の車止め。その中で、「銀色に輝く小鳥」が止まっているバージョンを見かけたことはありませんか? 正式な商品名は「ピコリーノ(小鳥付アーチ)」といって、最近その存在が注目を集めています。場所によっては、地元の人たちに帽子や服を着せられるものもあり、多くの人たちに愛されているといいます。
ピコリーノを製造販売しているのは、広島市にある株式会社サンポール。同社は、車止めと環境エクステリア、アルミ旗ポールの製造販売も手掛けています。服を着せたピコリーノを展示しているというので、2023年7月に東京ビッグサイトで開催された「メンテナンス・レジリエンスTOKYO2023」に行き、同社の担当者に聞いてみました。
「ピコリーノが誕生したのは1981年のことです。車止めの上に子どもが座ったり登ったりして、落下することのよる怪我を減らすために、かわいい小鳥の飾りものを付けるアイデアを思いつきました。現在は2代目ピコリーノになり、安全面からより突起部分を減らし、丸みを持たせた柔らかいイメージへと生まれ変わっています」
なんと…ピコリーノは、車止めの単なる飾りなのかと思いきや、実は「子どもの怪我」を防ぐために考え出された“優しい小鳥”だったのです。
「車止めは記憶に残りにくいものが多いのですが、ピコリーノを付けたことで、子どもの頃に見たことがあるという声を聞くようになりました。現風景の中に残っていることは素晴らしいことだと実感しています」
服を着た「江のピコ」誕生
そんなキュートなピコリーノが、『タモリ倶楽部』や『がっちりマンデー!!』といったテレビ番組などで取り上げられ、さらに服を着たピコリーノの存在も確認され、だんだんと知れ渡るようになりました。
ブースに展示されていたピコリーノには、手編みの赤い服が着せられていました。実はこの赤い服こそ、ピコリーノに着せられた最初の手編み服だというのです。
制作者は江ノ電・江ノ島駅の売店に勤めていた女性とのこと。1999年冬の寒空の下、同駅の改札を出たところにいるピコリーノを見て「寒そうね!」と思い、毛糸で編み始め着せたのが最初だといいます。服を着たピコリーノは「江のピコ」と呼ばれて、地域の人たちにはちょっとした有名な小鳥なのだそう。江ノ島駅のピコリーノ着せ替えはTwitter(現:X)でも見ることができます。
最初、メーカーもピコリーノに服が着せられていることを認識しておらず、女性が江ノ電を退職されるときに、役所にピコリーノについて問い合わせたことから連絡があり知ったそうです。
服を着せる“ボランティア活動”は、2代目の販売員にも引き継がれ、「この活動を誰かに引き継ぎたい」とまわりに話すようになったそうです。その声を聞いた地元のタウン誌である江ノ電沿線新聞社が名乗りを上げ、地元に貢献できるのであればと、江ノ電120周年記念イベントとして、2022年に「江のピコ編み物グランプリ」を開催。応募作品全131点を載せた小冊子まで作っています。
応募者のうち5名の方が自分たちで組織を作り、ボランティアとして毎月1日に服を着替えさせています。ボランティアの方は地元の女性の方がほとんどだそうです。
広がる「服を着せる活動」
また、「江のピコ」から始まったピコリーノに服を着せる活動は全国へと波及していき、川崎フロンターレのホームスタジアムである川崎市営等々力陸上競技場には、選手のユニフォームを模した服をピコリーノが着ています。
また、同社はピコリーノ人気に応えるべく、2021年にはGoogle Mapに「こんなところにピコリーノMAP」を立ち上げ、全世界に生息するピコリーノ生息情報を募集しています。実は台湾やフランス(マップには未掲載)でも発見されていて、ピコリーノは生息地を拡大していて、全世界に4万4000羽以上も生息しています。
さらに同社では、2パターンあるピコリーノのポーズはそのままに、1/2スケールで作った置物「まめピコ」も販売しています。
実は、子どもを怪我から守る優しい小鳥だったピコリーノ。その存在を知ってしまうと、いつも見かけている車止めも、また見方がちょっと変わってくるかもしれませんね。