県境のトンネルに白猫が!極寒の山奥に捨てられ、飢えと寒さに震えていた猫は今…

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

三重県と奈良県の県境は、山深い場所ばかり。冬になると極寒の地に変わります。そんなところに1匹の小さな白猫が現れました。2022年12月のことです。

かなりお腹が空いているようで、足元はおぼつきません。ふらふらとどこに行くこともなく、トンネル付近を彷徨っています。

この様子を車で通りかかった近くの住民・Nさんが発見します。すぐ三重県名張市で活動する保護猫団体「にゃにゃ倶楽部」に連絡。以前からにゃにゃ俱楽部の活動を応援しており、面識があったのが幸いしました。

捕獲器でガタガタと震える白猫

連絡を受けたにゃにゃ倶楽部は、飛んでいきたい気持ちで一杯。しかし、別の現場の猫のレスキューもあり、この日動くことはできません。すると、Nさんが言います。

「私が保護します」

捕獲器を友人に借り、その足でトンネル近くに設置。白猫は空腹が限界だったのでしょう。ほどなくして捕獲器に入ります。ガシャン!と大きな音を立てて閉まる捕獲器のふたに、白猫は骨と皮だけの体をガタガタと震わせました。

Nさんはそんな白猫が不憫でたまらず、急いで帰宅。捕獲器から出そうとすると、白猫が思い切りNさんに噛みついたんです。怖くて怖くて仕方ない気持ちを、噛むことで表現したのでしょう。それが分かるから、Nさんはとても切なくなりました。

記録的大雪を避けられた

Nさんは噛まれた傷を病院で処置してもらい、包帯を巻いた手で帰宅。そのNさんの姿を目にした白猫は、何となくばつが悪そうな表情を見せるんです。「怒ってないよ」と伝えおやつをあげると、白猫はほっとした表情。

窓の外に目をやると、雪がチラチラと舞い始めていました。あれよあれよといううちに、ドカ雪に。一晩明けると、辺り一面銀世界。あのままトンネルで過ごしていたら、白猫の命はなかったでしょう。

「良かった」

Nさんは心の底から思いました。でも、心配なのは白猫の行く末です。高齢の先住猫と一緒に過ごしてもらうには、白猫は若すぎる。あと、白猫自身がNさんに対して恐怖心を抱いているようなのです。顔を見るたびに、ビクビク。

フランネルに包まれるような生活を

1週間ほど、白猫はNさんの家で過ごしました。その間に去勢手術も済ませたんです。子猫と思われていた白猫は、2~3歳と判明します。2022年12月下旬、白猫はにゃにゃ俱楽部のシェルターに移動。白猫に安心して過ごしてもらうには、離れて暮らした方が良いとNさんは考えました。

Nさんは最後にプレゼントを用意したんです。それは名前。「ネル」といいます。トンネルで保護しただけでなく、これからは凍えることなくフランネルに包まれるような生活を送ってほしいという願いから。二度と寒空の下で過ごすことはないよう。

にゃにゃ倶楽部はNさんの思いを受け止め、新たな家族探しを開始しました。つらい思いをした分、幸せになろう。

この子、野良猫じゃない!

シェルターでのネルくんは、Nさんの家で見せたおどおどした姿はどこへやら。自由奔放に駆けまわり、人間を見るとスリスリ。特にパンを食べている人間に興味を持つんです。ダイニングテーブルの下に待機し、分けてもらえるのをウキウキと待ちます。その姿ににゃにゃ俱楽部のスタッフは感じました。

「この子、野良猫じゃない」

ネルくんのこの姿、これが以前飼われていた家での習慣だったのでしょう。前の家族は何らかの事情でネルくんと暮らせなくなり、山に遺棄したのかもしれない。胸が痛くなりました。捨てる前に相談してくれたら、ネルくんを怖い目に逢わさずに済んだはず。

昨今、高齢者のペットが遺棄される事例が多く、それが頭に浮かびました。飼い主が死亡したり入院したりで、ペットが取り残される。にゃにゃ俱楽部でも何度も対応してきた事例です。今でも山で獲物を獲れば生きていけると考える人が、猫や犬を遺棄しています。そんなこと、人間からご飯を貰っていた動物ができるはずもないのに。

2回目の譲渡会での出会い

2023年2月、ネルくんは名張市で開催された譲渡会に参加します。初めての経験にドキドキ。この時はもう、保護された時のガリガリではありません。パン以外も美味しいとシェルターで知ったんです。譲渡会デビューではご縁がなかったものの、色んな人に「かわいい」と言ってもらえてネルくんはご満悦。表情が柔らかくなります。

「この調子なら、里親さんが見つかるかも?」

そうにゃにゃ俱楽部は思い、今度は3月開催の津市の譲渡会にエントリーします。迎えた当日、ネルくんはケージの前面にデーン。「かわいい」と言ってくれる人には愛想も振りまくほどの余裕っぷり。

そこに、1組の母子が訪れました。子猫ではなく、貰われにくい猫を迎えようと色んな猫を見ます。にゃにゃ俱楽部はネルくんの話をすると、母子共に号泣。

「うちで迎えさせてください」

実は、老猫を亡くしたばかりの母子。この老猫も、前の飼い主が飼育困難になり手放された猫なんです。ネルくんがその子と重なりました。

「有難う」の手紙

話はとんとん拍子。3月21日、ネルくんは新しい家での生活をスタート!トライアル期間で問題がなかったため、正式譲渡に。新しい家でネルくんは溺愛されます。母子はネルくんと出会えたことが幸せで、保護してくれたNさんに手紙を書きました。「出会わせてくれ有難うございます」と。

Nさんは一緒に暮らしてあげられなかったことを引け目に感じていましたが、その手紙で救われます。母子に返事を出しました。「迎えてくださり有難うございます」。

多くの人のリレーでつながったネルくんの幸せ。しかしこれは、幸運が重なっただけ。山に遺棄された猫は、餓死か凍死するのが関の山です。人間に育てられた動物を捨てることは、最大限の苦しみを与えながら命を奪う行為だと、多くの人が知るべきことでしょう。

捨てる前に、最寄りの保健所か保護猫団体に相談を。にゃにゃ俱楽部では、捕獲と里親探しは出来る限り協力してくれるとのことです。シェルターが満員でなければ、引き取りも可能。だから、捨てる前に相談してください。

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【にゃにゃ倶楽部】
▽litlink
https://lit.link/nyanyaclub

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