1年ぶりに食堂を利用した3年生の角春乃さん(18)は「食堂が無くなって友達同士で寂しいと話していた。また食堂で食事できて嬉しい、これからも利用したい」と話した。
注文したのは、牛すじカレー。「ゆで卵が付いていてうれしい、辛めのカレーでおいしかった」と満足そうに話した。
初めて食堂を利用する1年生の 伊藤美陽さん(15)は「いままで学食を利用したことがなかったので、楽しみにしている」と期待しながら列に並んでいた。同校のお昼休みは、午後0時50分から1時半まで。40分間の休み時間に、約80席の席がほぼ埋まり、60人以上の生徒が利用した。弁当を持ち込んでいる生徒もいた。
記者も高校生に戻ったつもりで食堂を利用したかったが「完売状態」だった。生徒たちはおいしそうに食堂でカレーやうどんを食べて昼休みを楽しんでいた。
新しく食堂を運営するのは、高校に近い場所で喫茶店やコーヒー豆の販売をする「LA珈琲」。店長の牧野和夫さん(71)は、「生徒に作りたてのおいしくて安い食事を提供したい、ライバルはコンビニです」と意気込む。現在は試験的に6種類のメニューを提供している。メニューには日替わりランチが500円、牛すじカレーが420円、牛丼が480円、豚汁100円と学食らしいリーズナブルな品が並ぶ。仕事に慣れたら、自慢のコーヒーや品数を増やして提供したいという。
LA珈琲が入るまでには、教職員や生徒の努力があった。坂根博行教頭は「生徒の栄養も考え、学食は学校にとって無くてはならないもの」と業者が撤退することが決まった頃から、次の食堂の運営者を探していた。「学食ロス」は生徒の間に広がり、当時の3年生が「松商お昼事情を救え!!」と題したプロジェクトを立ち上げ、学食再開の可能性を探ったり、弁当を注文できるシステムの導入を目指したりした。在校生にとって食堂はそれだけ重要な位置を占めてきた。
生徒の熱意に教員も動いた。2022年の秋ごろ、同校の教員の1人が牧野さんの店に客として訪れ、学食運営を打診した。牧野さんは、島根県松江市の宿泊ができる多目的施設「青少年館」で不定期に食堂を運営していた経験があった。牧野さんは「依頼があったときは学食を引き継ぐことをしばらく考えた。高校生の昼食をサポートするやりがいを感じ、自分たちなら運営できると考え学食を引き継ぐことを決めた。自分が元気なうちは食堂を続けていきたい」と話した。
島根県雲南市出身の記者の母校には食堂は無く、地元のパンの自動販売機があるだけだった。しかし、現在は自販機すらなくなってしまった。部活や勉強で忙しい高校生にとって「食」は学校生活の中で大きな関心事。学校に食堂があることはそれだけで魅力的だ。しかし、それ以上にうれしそうに食事を囲み、仲間と語らっている生徒たちの姿を見ると、単なる食堂以上の意味を感じ、羨ましくて仕方なかった。ここで食べた味、仲間と語り合ったことは「青春の1ページ」として刻まれていくだろう。
一方、人件費や物価高の影響下で継続的に運営するのは難しくなり、全国ではコロナ禍を機に姿を消す学食は少なくない。同校では、生徒や教員の熱意、そして牧野さんの心意気によって窮地から救われた。ビバ!学食、同校の生徒にはそのありがたみを忘れず、これからも学食で楽しい時間を過ごしてほしい。