第2次ブームのカヌレ、なぜ今流行りの小さなサイズに? 家庭でつくる人も増加するほど一般的に

いなだ みほ いなだ みほ

1990年代に流行し、現在は第2次ブームが訪れている「カヌレ」。有名洋菓子店をはじめ、専門店、ホテル、カフェ、ベーカリー、コンビニスイーツとして登場するほか、グミやアイスなどカヌレの概念からかけ離れた商品も。そんななか、今、多くの人が想像するカヌレとは、ひとくちサイズのいろんな味のカヌレではないでしょうか? でも、実はこの小さなカヌレが一般的となったのは、兵庫県芦屋市のパティスリーからなのです。

小さなカヌレが人気となるきっかけ、またカヌレ型を販売する菓子道具店に第2次カヌレブームの影響があるのかどうか…スイーツライターいなだみほが取材しました。

今人気のミニカヌレの誕生秘話

フランス生まれのこのお菓子、正式には「カヌレ・ド・ボルドー(cannele de bordeaux)」という名前。フランスのボルドー地方にある修道院で作られていたと伝えられている郷土菓子の1つです。第1次ブームでは、主にパティスリーで作られ、焼き型は銅製、中に蜜蝋を塗ることなど、修道院で伝わるクラシックな作り方に沿って作られており、およそ直径約4~5cmが本来のサイズでした。

またフランスでは、カヌレといえばシンプルにそのもののカヌレ味ですが…日本では、ゴマ、チョコ、抹茶など様々なフレーバーでも楽しめるのが一般的に。そんな今のカヌレの流れを生み出したとも言えるのが、関西で有名な洋菓子店「ダニエル」。兵庫で1990年に創業、大阪には商業施設「ルクア大阪」にも店を構え、自宅用に手土産用にと買い求める人で行列ができるほどの人気店です。

一体いつから、今の小さなカヌレが登場したのでしょう? 神戸を代表する人気パティスリー「ダニエル」の担当者にお話を伺いました。

ーーフランス料理のデザートのようなイメージのお菓子で人気の「ダニエル」ですが、カヌレはいつから?

現在の場所に2013年に移転する前「ダニエル」は山手幹線沿いの御影にあり、すぐ近くでフレンチレストラン「ア・ターブル ダニエル」を経営しておりました。カヌレは、そのレストランのコースでプティフール(コース最後のお茶菓子)として提供していたのが最初なんです。「何か珍しい焼き菓子も出せたら…」と考えたシェフが、フランスに旅した時に食べたお菓子がきっかけだったようです。

その際に、現地サイズですと、食後のデザートのひとつとしては大きすぎるので、プチサイズにできないかと。当時は国内メーカーに小さな型がなかったので、ヨーロッパから取り寄せたと聞いております。現在も展開しているプレーン、カカオ、ゴマの3フレーバーを作っていました。レストランのお客様に「おいしいから、持って帰りたい」という声も度々いただいていたことも記憶しています。

ーー25年くらい前ですかね? まだまだカヌレを知らない人の方が多かった頃ですね。

そうですね、当時はパティスリーには置かず、レストランだけで出していました。食に興味のあるお客様が多かったのか、「何?何?変わった形、食感も楽しい」などの反応をいただいていおりました。その後、「ルクア」に出店が決まった際に、レストランで人気だったカヌレに注力した焼き菓子専門店に。「いろんな味があった方が楽しいね」ということで種類も増やし、現在の基本8種と季節限定のフレーバーとなっています。

ーーこのサイズは本当に食べやすいサイズですね。

カヌレ本来のサイズだと、ラム酒を効かせたアパレイユ生地は、もっちり食感で濃厚ですので食後にいただくにはやや重いかもしれません。ですので、現在のサイズは、食べやすいちょうど良いサイズだと思っています。また、それぞれのフレーバーも、生地に負けない素材選びに気をつけており、いくつも食べたくなってしまう方も多いようです。

現在、「ダニエル」といえばカヌレとイメージされる方も多いようですが、大ヒットさせるつもりは全くなかったんです。お菓子の中の一つのアイテムとして、他のアイテムにも力を注ぎながらバランスよく洋菓子店としてお客様に今後も楽しんでいただきたいと思っております。

ブームで、カヌレ型が激売れ!?

東京・合羽橋にある創業70年の「馬嶋屋菓子道具店」では、コロナ禍の自宅でのお菓子作りブームから、お菓子の焼き型の売れ行きが急上昇。そのなかでも特にカヌレの焼き型が人気だそうで、企画室の櫻井裕さんにお話を聞きました。

ーーどんなお菓子の型が最近の人気ですか?

「コロナ禍には、自宅でのお菓子作りブームで、シフォンケーキ、クッキー型などさまざまな焼き型の売り上げが伸びました。カヌレも同様によく売れました。おもしろいのは、カヌレだけがいろんな素材の焼き型があるんです。

例えば、シフォンケーキにはアルミ素材、フィナンシェ、マドレーヌにはシリコン加工がほどこされた鉄やアルミ素材というふうに、お菓子に適した素材の焼き型があります。しかし、カヌレは王道の焼き型銅製をはじめ、アルミ製、ステンレス製、テフロン加工(ブリキや鉄)、シリコン加工(鉄)、シリコンゴムなど。いろんなメーカーさんがいろんな素材で作っているのがおもしろくて、うちではありとあらゆる素材のカヌレ型を取り扱っております」。

ーーなぜカヌレ型が特に人気なのでしょうか?

「カヌレ作りの魅力は、材料が揃えやすいこと、レシピは意外にシンプルなんです。ただ、焼き加減などが難しい。そのあたりが奥が深くて、探究心をくすぐられるのではないでしょうか? また、見た目のかわいらしさも魅力の一つだと思います」

ーー公式サイトでは、カヌレをいろいろな素材の型で焼き試されていますが、おすすめは?

「シリコンゴムやステンレスは火の通りが良くないのであまりカヌレ作りには向いていない印象です。アルミ、銅は熱通りがよくパリッとした食感の焼き上がりに。ただ火周りが良すぎるので冷めやすく、家庭用のオーブンだと熱の周りにムラができ、出来上がりに焼きムラができるという難点も。一般の方が使用される場合は、ご家庭用オーブンでも熱ムラの出にくいテフロン加工やシリコン加工がされた鉄製のものをおすすめします。

同じ条件でも型の材質が異なると焼き上がりが全く異なります。また、カヌレは温度の影響をデリケートに受けるためオーブン内の置く位置によっても焼き色が変わるかもしれません」

ーー焼きムラが起こったり、生地がうまく取り出せない素材の型は、どのような用途で引き続き販売を?

「昨今のカヌレブームで、本来のカヌレを作るだけなく、カヌレ型のゼリーやグミ、プリンなんかも作られるようになっているからだと思われます」

ーーなるほど、実際に人気の型のサイズや素材は?

「人気のサイズは直径・高さが45mm、また見た目のかわいらしさで直径・高さ35mmも人気です(共にサイズは内寸)。小さい型の方が生地のパリパリ感が感じられるそう。素材で言うと、あかがねカヌレ(ブリキにテフロン加工)が人気です。こちらはお菓子教室の先生が購入してくださり、生徒さんにも薦めてくださったこともあって、評判を呼んでいます。1週間で100個売れたこともありました。今後もますます一般的なスイーツとしても広まっていきそうです」

◇ ◇

第1次ブームのときには人気となっていた「ダニエル」のカヌレは、今も変わらず人気を誇っており、珍しかった「小さなカヌレ」が今や一般的に。また今回の第2次ブームでは、カヌレ専門店やカヌレのメニューが次々と増えるだけではなく、コロナ禍を経て自分でも作ってみるという身近なスイーツに。これはブームというよりも日常のお菓子のひとつとして浸透したともいえるのではないでしょうか。

◇ ◇

「Daniel ダニエル 本店」

ダニエルで販売されているカヌレは10個入1400円、20個入3300円で、関西では手土産の定番です。ほかにも、ドライいちじく、アプリコット、チョコレートなどを細長く焼き上げたしっとりしたチョコレートケーキ「うなぎの寝床」は創業時からの看板商品。ほかにもクッキーも各種あり、芦屋の本店とテラス店には生菓子も(テラス店ではカヌレはイートインのみ)。

住所:兵庫県芦屋市三条南町5-1
TEL:0797-35-4333
営業時間:10:00~18:30 月・火曜休み(祝日の場合は営業)
http://unaginonedoko.com
IG:@caneledaniel

「馬嶋屋菓子道具店」

地下1階〜2.5階までの6フロアで、和・洋菓子、パンなどに必要な道具を6000点以上扱う日本最大級の専門店。オリジナル商品があるほか、木型・焼印などのオーダーも受付。毎週木曜日はスタッフによる「LIVEクッキー型作り」もおこなっており、クッキー型は通常輸入品が多いなか、手作りでオリジナルのクッキー型を作成。来店時に希望の形(当日の来店者のみ・料金発生)を製作してもらえることもできる。オンラインでも商品を販売。

住所:東京都台東区西浅草2-5-4
TEL:03-3844-3850
営業時間:9:30~17:30(日曜10:00~17:00) 祝日休・年末年始・夏期休みあり
https://majimaya.com/
IG:@majimaya_tokyo

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