長期化するロシアの軍事侵攻から避難し、来日したウクライナ人のマリナ・コワルディナさん(33)が大津市の温泉地「おごと温泉」の旅館で受付スタッフとして働き始めた。故郷の都市はまだ攻撃が続いているといい、「優しい同僚に囲まれてうれしい。将来は不安だが、今は大好きな日本で言葉や文化を学びたい」と仕事に打ち込んでいる。
マリナさんは、ウクライナ東部ハリコフ州で両親と3人で暮らしていたが、昨年2月下旬のロシア軍の侵攻後、毎日のように攻撃にさらされ、2週間後に避難。親戚らを頼り、同国西部のリヴィウ州内に転居した。「戦線は自宅から1キロと離れていなかった。1時間に1度、砲弾が近くに飛んできた日もあった。火災になっても消防車は来ず、怖かった」と振り返る。
命の危険は免れたが、ロシアによるエネルギー施設への集中攻撃で昨秋から全土で停電が続いた。マリナさんは日本語を学び、本を翻訳する仕事をしていたこともあり、日本への避難を決めた。
臨床検査会社の近畿予防医学研究所(大津市湖城が丘)が行うウクライナ避難民支援プロジェクトのフェイスブックを見たことがきっかけで同社の支援を受け、就労可能なビザを取得。隣国のポーランド経由で今年3月末に来日した。同プロジェクトに協力する温泉旅館「びわ湖花街道」(同市雄琴1丁目)で、5月の連休明けからパート勤務を始めた。
勤務中は、宿泊客の受付や飲食の提供、各部屋の掃除が行き届いているかどうかのチェックなどに励む。英語が堪能で、訪日客の接客もする。「日本はお酒の銘柄がたくさんあって覚えるのが大変だが、日本の伝統文化に関心があったので、ここで働けてうれしい」と笑顔を見せる。高野健一郎専務も「一生懸命頑張ってくれている。本人の希望もあるが、長く働いてほしい」と歓迎する。
両親は故郷のハリコフ州に戻った。毎日電話で連絡を取っている。現地はまだ攻撃が続き、店舗などの経済活動は再開していないという。マリナさんは「戦争については思い出すのがつらい。早く終わってほしいと思うだけ。(母国の)状況が変わっていく中で将来の計画は見えないが、今はいい経験を楽しみたい」と話す。