猫の問題は人の問題だから…老猫専用ホームや「たすけあい制度」など、多角的な取り組み次々と NPO法人「もりねこ」

古川 諭香 古川 諭香

岩手県盛岡市には新しい仕組みを次々と考案し、猫の命を救っている保護団体があります。それが、認定NPO法人もりねこ。もりねこでは、もしもの時に頼れる“たすけあい制度”の導入や老猫専用ケアホームの設立など、一歩先行く動物保護活動を行っています。

譲渡に時間がかかるFIVキャリアの子にも心地いい居場所を

代表にもしものことがあっても活動が継続できるように、との思いから、もりねこは2016年に法人化。様々な条件をクリアする「認定NPO法人」となったのは、寄付を行った人が確定申告を行った際、寄付控除を受けられるようにしたいと考えたからです。

団体が運営する「保護猫カフェもりねこ」は、2014年にオープン。開設当初は、庭に迷い込んできた野良猫や家の小屋で野良猫が産んだ子猫、飼い主のいない猫の保護依頼が圧倒的に多かったそう。

しかし、近年は多頭飼育崩壊のレスキューや飼い主である高齢者が亡くなったり、施設や病院へ入所することになったりして飼っている猫が取り残され、親族や福祉行政関係から相談が入るケースが増えています。

これまで命を繋げてきた猫は、799頭(※2022年3月31日時点)。その中でも、特に印象に残っているのは、2015年に多頭飼育崩壊の現場から救出された、菊蔵くん。

この時、もりねこでは保健所からの連絡でレスキューした猫の一部を受け入れることになりましたが、数匹の猫たちがFIV(猫エイズ)キャリアであることが判明。一転して、保健所からは「譲れない」と告げられました。

「当時、もりねこにはFIVキャリア猫たちの保護部屋がなく、盛岡市保健所ではFIVキャリアと判明した子は即日処分という時代でした」

しかし、代表の工藤さんは、どうにか命を救いたいと、ボランティアに一時預かりを募ったそう。その結果、預かり場所を確保でき、引き取りが実現。菊蔵くんも、もりねこにやってきました。

菊蔵くんは人懐っこく、かわいかったものの、推定8~9歳とシニアなうえ、FIVキャリアであったため、譲渡には時間がかかると予想されました。実際、希望者が現れてもFIVキャリアであることを伝えると、譲渡は実現せず…。

そんな中、菊蔵くんを気に入ってくれたのが、2人の子を持つ家族。「FIVキャリアであることを説明すると、お父さんは『菊ちゃん、と決めてきたのだから』。と言ってくださった。とても優しいご家族で、時々ペットホテルで会う菊蔵はツヤツヤで幸せそうです」

そして、もりねこでは、この経験を活かして、譲渡までの期間が長くなりやすいFIVキャリアの子が心地よく過ごせるよう、保護猫カフェの5階に「もりねこプラス」というシェルターを開設。

「FIVは感染のリスクはそれほど高くないとはいえ、ノンキャリアの子とは部屋を分けて保護したいという思いもありました。ここで触れ合っていただくことでFIVキャリアの子への偏見を払拭するという啓発の意味もあります。なぜか、FIVキャリアの子は性格がよい子が多く、お客様にも人気のフロアとなっています」

たすけあい制度の開設や新感覚の寄付プラットフォームへの参加も!

もりねこでは、動物と人が安心して老いれる、一歩先行く工夫も行っています。例えば、老猫専用のケアホーム「しっぽのおうち」は専任の館長・千葉さんが、高齢や病気の猫に手厚いケアを行う、終生飼養施設。

ここでは、獣医師や動物看護師による定期往診も受けられます。

以前、もりねこでは高齢の猫や毎日の皮下輸液が必要な子たちなど、特別なケアを必要とする子たちが増えた時期があったそう。その中で強くなったのは、残された時間があまり多くない猫たちにも伸び伸びと過ごしてほしいという想いでした。

そんな時、老猫ホームを作りたいと考えていた千葉さんとの出会いがあり、「しっぽのおうち」の設立が実現。猫たちはサンルームもあるケアホームで日向ぼっこを楽しみながら、最期までニャン生を謳歌できるようになりました。

また、もりねこでは高齢者による猫の引き取り相談が増えていることから、もしもの時に頼れる「たすけあい制度」(月額3,300円/もりねこの卒業生は月額2,200円)を導入。

この制度は、一人暮らしの方にとってもありがたいもの。1年以上継続して加入している方は、もしもの時に飼い猫を引き取ってもらえるそう。加入している間は、1週間~数ヶ月間、愛猫を預かってもらうことも可能。実際に制度を利用する機会がなかった場合には掛け金は返金にならず、もりねこへの支援になります。

様々な工夫を取り入れながら活動を続けている、もりねこは株式会社オムニバスが提供する、若年層を対象とした寄付プラットフォーム「Pay it Forward Project」の支援先にもなっているよう。

こちらは従来の寄付の形とは異なり、寄付者同士の繋がりを可視化できたり、誰かに対する感謝の気持ちを他の人への手助け(=寄付)として返せたりするのが特徴。

「もりねこの主なご支援者さまは、40代~50代の女性です。若い方たちにも気軽にご支援いただけたら…と考えていたところ、ご案内をいただき、これならSNSを活用している世代に受け入れられるのではないかと感じました。何かお世話になった際に、直接その方にお返しをするのではなく、他の方にお返しをして親切の輪が広がっていくというシステムにも魅力を感じました」

保護活動をする上で、資金繰りは大きな課題になるもの。だからこそ、もりねこのメンバーは「Pay it Forward Project」のような斬新な寄付が浸透することは大きな意味があると考えています。

「誰でも気軽に小額からの寄付が可能になれば、寄付文化が根付いていない日本でも「寄付」という行為が大げさなものではなくなるはずです。寄付をした際にもらえる、お礼のカードの種類が増えていくのを見ることでも、寄付をする楽しさを感じていただけると思っています」

9年間の活動で気づいたのは「猫の問題は人の問題」だという事実

他団体の活動を参考にしたり、許可を貰いながら取り入れたりし、“一歩先行く保護活動”を展開する、もりねこ。活動の根底には、団体のコンセプトである「ねこもひとも、しあわせに」という願いがあります。

「9年間、活動を続けてきて痛感したのは、「猫の問題は人の問題」ということ。不幸な猫だけを見ていても問題は永遠に解決しません。背後にある人の問題を解決することが、猫も人も幸せに暮らせる社会の実現には不可欠です」

猫に優しい社会は、人にとっても優しい社会であるはず。だから、自分たちのような保護団体が必要とされない世の中になってほしい――。そう思うからこそ、もりねこでは保護して譲渡するだけでなく、保護猫カフェがある理由や外の猫たちを取り巻く状況を知ってもらうきっかけづくりも行っているのです。

多角的な視点から猫の問題を解決しようと奮闘するもりねこが今後、行いたいのは福祉行政から高齢者の猫の飼育状況を聞き取り、保健所と連携して、飼育が困難になった場合に迅速に対応できるような三者協働のシステムを構築すること。

「福祉行政の方は日々、高齢者と接しており、猫の飼育状況も把握していらっしゃいますが、飼育については専門ではないため、ご高齢の方が猫を飼い始めても適切なアドバイスをすることが難しいのが現状です。高齢の方の中には猫の通院や買い物に困難を感じている方もいるので、通院代行サービスやフードのお届けなどで関わり、人と猫どちらの健康状態も確認できるようなサービスを行いたいです」

また、盛岡市や岩手県に動物保護に使途を指定した、ふるさと納税の導入を働きかけたいとも意欲を燃やします。

人も猫も幸せに暮らせる社会を目指す、もりねこさん。その熱い想いに触れると、自分にできる“プチ猫助け”を考えたくもなります。

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