月亭八方、75歳だからこそ明かせる「楽屋ニュース」披露へ 自身の芸能生活55周年を振り返り…「努力と苦労を見ずして過ごしてきた」

仲谷 暢之 仲谷 暢之

2023年、芸能生活55周年を迎えた月亭八方。それを記念して、先日、大阪から始まった「八方の楽屋ばなし」公演では、落語にプラスして、弟子でもあり息子でもある月亭八光と、なるみ、そしてザ・ぼんちをゲストに迎えて、かつて若手の頃に見聞きした古き芸人たちの、会場でしか聞けない濃厚な時代の“楽屋ニュース”を披露し、大いに楽しませてくれた。そんな八方に改めて、1970年代から落語家としてたゆとうように歩んできたこれまでを聞いた。

ーー落語家生活55周年を振り返っていかがですか?

八方:ほんま気がつくと55年でしたね。小学校の時に兄貴に連れられ、阪神の試合を見てから阪神に惹かれ、何より野球そのものに魅せられて、こうなったら自分も選手になると決めて浪商に入学したものの、新入生1200人のうち、800人が野球部に入部という中で、「あ、これは到底、選手なんて無理やな」と3カ月で退部しました。なんで3カ月やったかと言うと、先に入部金と4月から6月まで部費を払ってるんです。それが親に悪いなと思って、その分だけ行きましてん(笑)。

で、次に興味が向いたのがお笑いでした。家が福島区やったので、うめだ花月に通うようになりまして、もうこうなったら漫才師になるしかないかと心に誓ったんですけど、通ううちに、漫才よりもそれまで興味のなかった落語に面白さを見出しまして、高校卒業して就職したものの、寄席巡りをしてるうちに落語家になりたいなという気持ちが強くなりまして、好きやった桂米朝師匠とこに行ってもライバルが多すぎる。

そんな時、師匠の弟子に桂小米朝という方がいまして、今度、「月亭可朝」を襲名することを聞き、これは一番弟子になれるかもと門を叩いたら引き受けてくれまして。それが二十歳でした。

――月亭可朝師匠は厳しかったですか?

八方:いや、どちらかというと放任でしたね。名前もすぐに付けてくれました。「思案六法、休みに似たり」から六法って名前やったんですが、10日ほどしたら、「六法と言う名前はあかん、八方にする。末広がりやし」って。それに吉本に八田さんという偉いさんがいて、その方に師匠が「八田さんの名前から付けましてん。こいつをよろしくお願いしますわ」って挨拶に行ってくれて、今思うと、若い落語家の名前を覚えてもらおうという師匠の心配りやったんやろなと思います。

そのうち師匠が「嘆きのボイン」でブレイクしてね、そら凄かった!営業で地方行った時はレコード店に行って「「嘆きのボイン」ありますか?」って聞きに行かされましてね。それで店の人が「売り切れで取り寄せてます」なんてことを言わはると、それを報告しますねん。そしたら師匠えらい喜んでましたな。まさに売れっ子の誕生を、弟子として目の当たりにした時期でした。そんな弟子生活も普通は3年やったのが1年半で「もう付かなくてええで。それから事始めもいらんから」って言われて独り立ちしました。

――その後は「ヤングおー!おー!」という番組で桂文珍、四代目林家小染、桂きん枝(現・桂小文枝)でザ・パンダという若手落語家ユニットでブレイクされ、その頃「男はつらいよ 寅次郎子守唄」に重要な役で出演してられますね。

八方:山田洋次監督と渥美清さんが、東京で行われた(笑福亭)仁鶴師匠の独演会を観に来はった時、前座で私が出てたんですわ。その時にやったマクラ(噺に入る前の掴み的エピソード)を気に入ってくれはったみたいで、後日、吉本から「『男はつらいよ』に出てれくれ」って依頼があったからOKしたと。役は赤ん坊を残したまま女房に逃げられてしまう男で、その赤ん坊を寅次郎に託すんです。そこから騒動が起こるんですけど、撮影中は不慣れで、まだ若い僕に渥美さんがずっと付き合うてくれはってね。

そういえば最近、弟子から「師匠はこれまで悔いというのはないんですか?」と聞かれた時に、唯一悔いがあるとすれば、この撮影の時に、例えば監督から泣いてくれと言われたら目薬使わずに泣けるとか、まぁ上手くやっていたら、もしかしたら俳優としての月亭八方も、その後、あったかもしれへんなぁと答えました。まぁ“たられば”ですけど(笑)。

ま、そういうのがなかったから、こうやって落語家としてね、舞台はもちろんですけど、テレビに出してもろたり、楽屋ニュースもいまだに覚えていただいてたり、阪神タイガースファンとしても認知していただいてたりしてきましてね、言うたら“努力と苦労を見ずして”過ごしてきた55年間でしたね。ホンマありがたいことです。

――阪神タイガースのことが出ましたが、1999年、当時の監督で野村克也さんの時価100万円優勝祈念純金像「純金ノムさん」が発売された時に購入されましたが、それは今も?

八方:はい。大事にしてます。これはもうね、祈念像ですから、終生大事にせなあかんと思ってます。とはいえ、バットの部分だけが純金でね、他のとこはちゃいますねん。おそらく純粋に金だけやったら5万くらいちゃいますか(笑)。けど、今は野村克也監督という付加価値に100万円以上の値がついていると思ってます。

――そんな阪神タイガース、師匠から見て今年はいかがですか?

八方:「あれよあれよと“アレ”が見え」という一句を捧げたいと思います。岡田監督が優勝のことを“アレ”って言いはるんでね(笑)。

――先日大阪から始まった落語家生活55周年の「楽屋ばなし」と名付けられた落語会ですが意気込みを。

八方:大阪での公演はたくさんの方々が足を運んでくださって嬉しかったですねぇ。子どもの頃はそない丈夫やなかったですけど、母親をはじめとした家族の愛情、師匠や先輩芸人さん、後輩芸人らの恩恵受けながらやってきて、現在75歳になって。そら足痛い、腰痛いなどありますけど、言うてもまだまだ動けるし、口もまだ達者ですんで、12月まで記念公演は続きますんで、それぞれの会場に来ていただけるお客様方には、落語はもちろん、私が見聞きした多少の尾ヒレはついても、決して“ウソ”のない、昭和芸人さんたちの裏話でめいいっぱい笑っていただけたらなと思います。

   ◇   ◇

【月亭八方(つきてい・はっぽう)】
1948年2月23日、大阪市生まれ。1968年、月亭可朝に一番弟子として入門。関西では虚実綯い交ぜた芸人たちの楽屋ニュースが人気となる。そして熱烈な阪神タイガースファンとしても知られる。

▽月亭八方芸能生活55周年記念
「八方の楽屋ばなし」
出演/月亭八方、なるみ、月亭八光

奈良/8月13日(日)13:30~学園前ホール
ゲスト/西川のりお・上方よしお
兵庫/9月3日(日)13:30~さよう文化情報センター・おりひめ文化ホール
ゲスト/桂小文枝
滋賀/10月28日(土)13:30~滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 小ホール
ゲスト/桂南光
京都/12月9日(土)18:30~よしもと祇園花月
ゲスト/西川きよし、今田耕司
全会場料金/前売り当日とも3500円
特設サイト/https://tsukitei-happo-tour.yoshimoto.co.jp/

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