いつから京都の着物レンタルが人気に!? 関係者はみんな想定外「ここまでビジネスとして広がるとは…」

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 京都市内を訪れる観光客が、着物姿で歩く光景がすっかり定着した。新型コロナウイルスの影響で客が減ったレンタル店もにぎわいを取り戻している。観光地の着物レンタルは、京都でどのような変遷をたどってきたのだろうか。

老舗織物店の一角から、2010年代半ばに急増

 観光地のレンタル着物店の先駆けとされるのが、清水寺近くで2000年に開業した「岡本」(京都市東山区)。江戸後期創業の岡本織物店が、茶わん坂にある店の一角で始めた。

 取締役の岡本奈津喜さんは「周辺に舞妓体験の店ができていて話題になっていた。観光客向けのレンタルの店はまだなく、持っている着物を出してみようかと、母が発案した」と振り返る。

 当初から順調に利用が伸び、「手応えはあった」(岡本さん)。移転と出店を重ね、今は市内に7店を構える。多い日は1店で180人の利用がある。国内や韓国からの客は10代~20代が多く、台湾や香港はファミリーが中心。最近はインドネシアなど東南アジアの客も増えた一方、欧米の利用は少ないという。

 今や観光地のあちこちで目にするレンタル着物店だが、いつごろから増えたのだろう。京都府や京都市などに聞いてみたが、店舗数が分かる統計はないという。

 府や京都織物卸商業組合が発行し、着物姿の人が京都観光で特典を受けられる「きものパスポート」の冊子をみると、01年に始まった当初は記載のなかったレンタル店が、12年から掲載されるようになった。コロナ禍で休止する前の19年には「きものレンタル・着付け」のページに36店が並ぶ。京都市観光協会の会員となっている着物レンタル店は13社あり、ほぼ半数は15~16年度に入会した。

 急増した時期は10年代半ばのようだ。インスタグラムなどSNSで「映える」写真が広まりだした時期と重なる。店は京都の和装関係の企業が手がけるほか、IT関係などさまざまな業種が参入し、海外資本とみられる店も増えている。

1970年代は着付け体験

 ビジネスとして拡大する前は、行政や和装関係団体が1990年代~2000年代の観光シーズンに着物のレンタルを催していた。ホテルや旅館が提供したり、企業が祇園祭で浴衣の無料貸し出しをしたりすることもあった。

 観光客向けのレンタルの最も古い例ははっきりしないが、西陣織会館(上京区)では1976年の開館から2年ほど後に、旅行会社の要望もあって館内で着付け体験を始めた。現在のような外に出歩く方式ではなかったが、「最初から人気だった」(同館)という。

 きものパスポートの発行が始まった2001年の秋には、京都織物卸商業組合が、京都駅ビル(下京区)近くを会場に貸し出しを行った。03年秋には四条烏丸にあった京都産業会館に同組合が和装の情報発信のため「きものステーション」を設け、レンタルも始めた。07年からは府や和装業界の団体が京都駅ビルにレンタルの拠点を設けた。その後、同組合は11年を最後にきものステーションでのレンタル事業を取りやめた。「民間でレンタル店が増え、組合の事業として継続する意味合いが薄れた」のが理由だった。京都駅ビルから駅前のビルに移った府などのレンタル拠点も14年で休止、閉鎖となった。

 団体や行政がレンタルに乗り出したのは、地場産業である絹の着物の売り上げ増が狙いだった。だが、その効果はなかなか上がらず、レンタルの着物は合繊が主流となった。インターネットで仕入れるレンタル店も珍しくない。府や市、和装団体の関係者は異口同音に「レンタルがここまでビジネスとして広がると思わなかった」と話す。

流行はレースあしらいや淡色

 最近は、日本人の若い女性がレースをあしらった白色や淡い色合いのレンタル着物で街を散策する光景が目立つ。写真映えする素材が流行をつくり出している。

 安井金比羅宮(東山区)近くで2016年にオープンした「くるん」の飯田愛店長は「最初の頃は大柄な花やレトロモダンなものが人気だったが、この1、2年はレースを着たいという人が急に増えた」と話す。価格は1日5千円前後のプランが中心。小物やヘアセットも含めて「写真を示して『これでお願いします』というお客さんが多い。リピーターもいる」という。

 写真映えを求める動きが、観光客の流れを変えた場所もある。八坂庚申(こうしん)堂(金剛寺)=東山区=では、願い事を書いた色とりどりの「くくり猿」が境内につり下がる光景が人気となり、国内外から訪れる人が増えた。

 高台寺から清水寺へ続く二年坂、三年坂からは少し外れた場所にあり、奥村真永住職は「40年ほど前は参拝の人がほとんどいなかった」と振り返る。「さる年の2016年がきっかけで参拝者が増え、インスタなどで広まった。写真を撮って帰るだけの人が増えたので、『まず本堂へお参りを』と看板を出した。本当は仏教の話をしたいが、声をかけてもなかなか…」と複雑な思いもある。

 コロナ対策の制限が緩和されて今春から観光客が増えており、レンタル着物店では人手の確保が課題となっている。飯田さんは「ヘアセットの人が足りない。髪にこだわるお客さんは多く、スピードと質の両方が大事で、対応できる人は限られる」と話す。「岡本」はサービス水準を高めるため新卒採用と育成に力を入れており、「修学旅行で着物を体験して興味を持った」などの理由で、全国の専門学校などから入社する人が増えているという。

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