地面にめり込んだ「止まれ」標識の不思議 警察、県庁、市役所、観光協会に問い合わせても…「???」晴れぬ謎

平藤 清刀 平藤 清刀

奈良県にある春日大社へ通じる道路に、寺院の方向を示す道標と一緒に「止まれ」の規制標識が設置されている。しかも規制標識の一部がアスファルト舗装された路面に突き刺さっているという、なかなか珍しいビジュアルだ。このような設置の仕方になった理由を調べてみたが、どういうわけか有効な情報に行き当たらないのである。

標識の先端が地面にめり込んでいる!?

その標識があるのは奈良県奈良市高畑町で、春日大社の南側を東西に走る道路。春日大社の「上の禰宜道」への入口から西へ200メートル弱の位置にある丁字路の交点だ。

春日大社と新薬師寺の方向を示す道標の支柱に、赤い逆三角形の規制標識「止まれ」が設置されている。しかも路面すれすれにあるせいか、逆三角形の先端が一部路面にめり込んでいるように見える。

こんな設置の仕方があるのか。しかし「止まれ」は規制標識だし、そもそも道路標識は見えやすいことが大前提のはず。インパクトは申し分ないが、何故このような設置の仕方になったのか?

規制標識だから、奈良県警に問い合わせたら分かるはず。口頭でいうより写真を添えたほうが分かりやすいだろうと考えて、文書で問い合わせた。

1週間ほど経って、奈良県警から郵送で返事が届いた。A4サイズの書面には「当該標識は、警察管理の物件ではありません」と書かれてあるだけだった。

いったい誰が立てたの?

現物を見たら何かヒントが掴めるかもしれない。

2023年2月の初め、近鉄奈良駅前からバスで数分、破石町の停留所で降りて徒歩2~3分。すぐに見つけることができた。あたりには鹿が数頭たむろしていて、人通りは少ない。

路面にめり込んでいるように見えたのは、じつは坂道の角度に合わせて先端が切り取られているのだった。しかも切り取られた部分に、消えかけた文字で「先は蟻地獄」と手書きされ、「止まれ」の上にも手書きで「思い」と書かれているのが見える。もちろん、意味は分からない。

道標の支柱には「奈良県」と表示されているから、県庁の広報広聴課へ問い合わせたら何か分かるかもしれない。

せっかく現地を訪れたから、周辺に住む人からの情報も欲しい。たまたま近くにいたご婦人に声をかけ、この標識がいつからあるのか尋ねてみると「気が付いたら、いつの間にかできていた感じやよ。7~8年くらい前かなぁ」とのこと。

後日、奈良県庁広報広聴課へ文書で問い合わせた。質問項目は「標識の下部が路面の傾斜に合わせて切り取られている理由」「当初からこのような形状で設計されたのか」「現在の形になったのは、いつか」「その他、関連する情報」の4つ。併せて奈良市役所へも、同じ項目を文書で問い合わせた。

返事は奈良市役所のほうが早かった。総務課から電話をいただいたが、標識に関しては「去年より前の記録が残っていないため分かりません」とのこと。

2015年度以前から「とまれ」の標識は付いていたという情報を入手

なかなか有効な情報に行き当たらない。県庁からの返事を待っている間に、奈良市観光協会へも文書で問い合わせた。

役所や公的機関へ問い合わせるとき、電話を使わないのには理由がある。電話に出た職員が即答できる質問ではないので、どうせ「後日お返事します」と待つことになる。ならば質問を整理して文書で尋ねるほうが、お互いに一度の手間で済むからだ。

5日後、奈良市観光協会から電話で返事をいただいた。

「私どもが立てたものではないので、分かりかねます」とのこと。

他に手がかりを探すと、支柱の側面に「奈良盆地周遊型ウォークルート 山の辺の道」という表示がある。これは「奈良県観光局ならの観光向上課」が担当する事業だと分かったので、問い合わせたところ「景観・自然環境課」が立てたことが分かった。

やっと担当部署までたどり着くことができた。景観・自然環境課に問い合わせると、「平成27年(2015年)度に立て替えました」という情報を得た。問題の規制標識については「立て替え前の古い道標には、すでに付いていました。それを、そのまま移したようです」とのこと。立て替え前の道標に規制標識が付いた経緯は、残念ながら分からないという。

あまり深追いするよりもミステリアスな要素を残して、あれこれ想像をめぐらせるほうが楽しいかもしれない。

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