自転車置き場の隅でうずくまっていた子猫 アパートは猫NGだったけど…「この子を手放したら絶対後悔する」選んだ道

渡辺 陽 渡辺 陽

自転車置き場で鳴いていた子猫

ごまちゃん(3歳・メス)は、2019年10月5日に保護された。生後5週間くらいだった。

その日、兵庫県に住むSさんは、休日だったのでアパートの部屋でくつろいでいた。すると、どこからともなく子猫の鳴き声が聞こえてきて、Sさんは「母猫とはぐれたのかな」と思っていた。

「探してみたところで見つかることはまずないし、アパートはペット飼育不可だったので、積極的に探そうとは思いませんでした。でも、買い物に行こうと思って外に出ると、自転車置き場の隅に子猫がうずくまっていたのです」

Sさんは、「明日の天気予報は雨だったな。濡れたら風邪をひいてしまうかもしれない。でも、ペットは飼えないし・・・」と、ためらいながら子猫に近づいた。もし素早く逃げたら追いかけないことにした。

「ところが、ごまはいとも簡単に捕まえることができました。片手に乗るくらいの大きさで、動物病院に連れて行くと、体重は400gほど、生後5週間くらいだと言われました」

ごまちゃんは、抱っこするのもためらわれるほど茶色く汚れていて、耳の穴と鼻の穴は真っ黒、目の周りに目脂がついていた。Sさんは、猫用ミルクとシャンプー、フードを買って帰宅した。

私が責任を持って飼う

Sさんが猫用ミルクを指先につけて鼻の先に持っていくと、ごまちゃんは舐めてくれた。少しずつお皿で飲ませたら元気に飲んだという。シャンプーしてみると、白い毛の中から一体何匹いるのだろうというくらいおびただしい数のノミが出てきた。その夜、ごまちゃんは一晩中鳴き続け、Sさんもよく眠れないまま朝になった。

「ペットを飼えないアパートなのに捕まえてしまった、どうしようという動揺もありました。でも、友人と猫用グッズを買っているうちに、私が責任を持って飼うんだという気持ちに変わっていきました」

Sさんは離婚してから一人暮らしをしていて、2年が経った。経済的にもう少し楽になったら猫を飼えるマンションに引っ越して、もう少し広い部屋で猫を飼いたいと思っていた。

「ペットショップに行っては高額な猫を眺めて帰ってくる日々でした。でも、出会いは突然やって来ました。住まいも給料も準備が整っていなかったので、里親を探そうかとも思いました。でも、この子を手放したらきっと私は後悔する、私が状況を変えることができたら、問題なくこの子を飼えると思いました」

幸せな毎日

ごまちゃんと暮らせる部屋を探し始めたら、折よく転勤の話が舞い込んできた。運よく猫飼育OKのマンションも見つかった。

「でも、高層階だから道路も見えないし、電線に止まるスズメとおしゃべりもできない。ごまが気に入っていた出窓もない。騒々しくて空気も汚れていて、環境は以前より悪くなってしまいました」

環境の変化によるストレスからなのか、ごまちゃんはしばらく嘔吐したり、猫ニキビを作ったりした。今は落ち着いて健やかに暮らしているそうだ。

ごまちゃんはビビり。いつもSさんが置きっぱなしにしているバッグでも、その前を通り過ぎるたびに手でチョンとタッチして、それが何なのか確認する。小さなレジ袋を小さく結んでボール状にしたものを投げると取ってくわえて戻ってくる。その遊びが大好きだという。

ごまちゃんを迎えてしばらくすると、コロナで外出自粛の日が続いた。

「多少の不便さはありましたが、そばにはごまがいてくれました。一緒に窓の外を眺めたり、ベッドの上で一緒に本を読んだり、ごまと健康に、心穏やかに過ごせる日常に幸せを感じています」

ごまちゃんには、感謝の気持ちに加えて一つだけお願いがあるという。

「夜はぐっすり寝かせてください!」

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