「不幸な命を増やさない!」110匹の猫を一斉TNR ボランティアや住民の協力で不妊去勢手術を実施

岡部 充代 岡部 充代

 4月20日から22日の3日間、瀬戸内海東部に位置する家島(兵庫県姫路市の離島)で野良猫の一斉TNRが行われました。TNRとは、野良猫をT=Trap/捕獲し、N=Neuter/不妊去勢手術を施し、R=Return/元の場所に戻すこと。家島では野良猫の過剰繁殖が問題になっていたのです。

 宮区の区会役員を務める山戸美鈴さんが、島の野良猫が増えていると感じるようになったのは2022年夏ごろだったそうです。

「善意でエサやりをしている人がいるのは分かっていました。でも、だれも表立って注意できず、結果的にどんどん子猫が生まれてしまって……。神社にお参りに行くと糞尿のにおいがしましたし、宮司さんも掃除が大変だとおっしゃっていました。ほかにも野良猫の糞尿に困っている家がたくさんあり、なんとかしないと大変なことになるなと」

 以前からTNRの必要性を感じ、捕獲できた野良猫を自費で大阪の動物病院へ連れて行ったこともある山戸さん。“エサやりさん”がエサをあげている場所の近くに猫用トイレを設置し、お世話もしていました。ただ、その程度で糞尿問題が解決するはずはありません。

1年がかりで説得し、一斉TNR実現

 そんなとき、真浦区の区会が野良猫の一斉TNRに向けて動いていることが分かりました。猫の不妊去勢手術専門病院『スペイクリニック姫路』の野村芽衣獣医師の執刀も決まっており、あとは手術会場の確保だけという段階。山戸さんが閉園した元宮幼稚園舎の利用を提案すると、同じ役員の長濱綾美さんをはじめ区会全体の賛同を得ることができ、実現に向け一気に動きだします。

 野村獣医師が真浦区の個人ボランティアから相談を受けたのは約1年前のことでした。

「住民間のトラブルに加え、健康状態の著しく悪い猫たちが過酷な環境下で命を落としていました。島に動物病院はなく、島民の高齢化も進む中で都会のようなボランティアネットワークもありません。島の猫に関する相談事に行政はなかなか取り合ってくれず、島民の皆様は途方に暮れていらっしゃいました」

 そこから市役所や動物管理センター、家島の区会などにTNRの必要性や地域猫活動の意義について根気強く説明を続け、理解を得るまでに1年を要したのです。TNRや地域猫活動の認知度、理解度は都会でもまだ高いとは言えません。瀬戸内海の小さな島ではなおさらでしょう。

「猫は早くて生後4か月齢で発情が始まり、5か月齢で妊娠が可能になるので、よく言われる生後半年を待って手術したのでは間に合いません。手術をしないまま野良として暮らしていると、1年で10~15匹の子猫を産む可能性がありますし、エサをもらっている猫は栄養状態がよく、妊娠の確率が高くなります。野良として生きていくのは本当に過酷。不幸な命を増やさないためにはTNRが必要だということを、もっと知ってほしいですね」(野村獣医師)

100匹以上の野良猫が地域猫に

 スペイクリニック姫路のスタッフは事前に何度も島に渡り、野良猫の生息状況を調査。どのエリアに何匹いるのか、地図に落とし込む作業をしてきました。そして、実施数日前に30個の捕獲機を島に送り、19日から捕獲開始。姫路市内のボランティアグループと島民が協力して、初日だけで50匹近い野良猫の捕獲に成功したと言います。

 捕獲された猫たちは翌20日に手術を受け、そのしるしとしてオスは右耳、メスは左耳の先を桜の花びらのような形にカット(通称さくらねこ)。ビタミン剤などを投与してもらい暖かい部屋で一晩過ごしたのち、21日に元いた場所にリリースされました。20日に捕獲された猫は21日に手術、22日にリリース、21日に捕獲された猫は22日に手術、23日にリリース。捕獲からリリースまで5日間に及ぶ一斉TNRが終了しました。

 今回、不妊去勢手術を受けたのは野良猫109匹+飼い猫1匹。合計110匹の手術を野村獣医師が主体となり執刀しました。術前処置などを担当する医療スタッフとの連携プレーも相まって、スピード感をもって安全に多くの手術を実施することができたと言います。もちろん、ボランティアや島民の協力があってのことです。

 家島で初の試みとなる一斉TNRは成功しました。ただ、これは“始まり”に過ぎません。なぜなら、出産直後で授乳中の猫や生息を把握できていない猫など、手術できなかった猫が残っているから。

「そうした猫が50匹以上いるかもしれません。TNRは集団のおよそ70%以上に手術を施して初めて効果を発揮すると海外の論文で示されています。猫の繁殖力はすさまじく、短期間で次回、次々回と“継続”しなければ、あっという間に元の木阿弥になります。住民による耳カットのない猫の発見と手術の継続がとても重要で、それをすることで将来的に人との共生が可能な数まで減らすことができると考えています」(野村獣医師)

 こうした地道な取り組みが『殺処分ゼロ』につながるのです。

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