寛一郎、クランクアップ後に知った「当て書き」 ベテラン監督の時代劇「せかいのおきく」で手ごたえ「大好きな作品になる」

石井 隼人 石井 隼人

俳優としての自信を与えられた作品だ。映画『どついたるねん』『顔』で知られるベテラン、阪本順治監督による時代劇『せかいのおきく』(4月28日公開)に出演する俳優の寛一郎(26)は「監督とここまで徹底的に話し合った経験は初めて」と、俳優としてのステップアップを実感している。

制作スタイルは『スター・ウォーズ』方式?

黒木華主演の『せかいのおきく』で寛一郎が演じたのは、下肥買いの中次。糞尿を売り買いする中次は町人たちから差別を受けながらも、声を失ったおきく(黒木)から字を学ぶことで“せかい”に想いを馳せていく。

元々の構想は短編作品がスタートだった。「短編撮影の段階で長編映画にする計画があるとは聞いていましたが、長編にする際にまさか短編として撮った部分をラスト付近にはめ込むとは驚きでした。でもそれが一つの物語として成立していて、自分としても大好きな作品になりました。ストーリーを遡って作るという点では『スター・ウォーズ』と同じ方式ですね」と笑う。

おきくと中次のプラトニックな恋を淡く描くと同時に、江戸時代の循環型システムをテーマに据える。ご存じのように寛一郎の祖父は三國連太郎、父親は佐藤浩市。三國は阪本監督の『大鹿村騒動記』に出演しており、佐藤は阪本監督作の常連俳優だ。「ここにも人の循環がありますね。すごい巡り合わせだと思います」と感慨を口にする寛一郎だが、偶然の成り行き以上のものを掴んだ手応えがある。

撮影後に知った嬉しい事実

阪本監督との初対面は『一度も撃ってません』(2020年)。「その時は一方的に演出の指示を受けて、その通りに演じることしかできなかったけれど、2度目の顔合わせとなった短編撮影時は良いディスカッションができました。僕からセリフを付け足すアイデアを提案したり、おきくと中次の関係性について話し合ったり。これまでの出演作を振り返っても、監督とここまで徹底的に話し合った経験は初めて」。一人前の俳優として認められたような気がしたという。

それは寛一郎の思い違いではなさそうだ。「脚本を読んだ段階で自分と中次と近しい部分は感じていたけれど、撮影が終わった後に阪本監督から『実は当て書きだったんだよ』と言われて…。これってすごく幸せなことですよね」。佐藤家をよく知るベテラン監督が、寛一郎を阪本映画の“せかい”に招き入れてくれた。「自分としても大好きな作品」になるのは必然だったのだ。

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