「デビューまもない作家さんに伝えたい5つのこと」ベストセラー作家が新人に贈るリアルな助言が話題 アドバイスに込めた思いを聞いた

山本 明 山本 明

 京都在住のベストセラー作家が初めての本を出す新人作家に向けて「5つの伝えたいこと」を書いた記事のURLをTwitterに投稿し、注目を集めました。4月上旬現在、ツイートには47万回以上のインプレッション数が表示されています。

 「これまで、色んな方に伝えたいなと思っていたことをまとめてみました。デビューしたばかりの作家さんに伝えたい5つのこと(老婆心)宣伝、書店まわり、編集さんとのこと。主観全開で書きました。」というメッセージとともにツイートしたのは「望月麻衣@京都ホームズ19巻発売中!」(@maimotiduki)さん。

ベテラン作家が「宣伝」「書店まわり」「編集さんとのこと」…デビュー間もない作家さんに伝えたいこと

 代表作の「京都寺町三条のホームズ」(双葉社)シリーズは2023年現在、累計販売数は200万部を超え、アニメ化もされているという大人気作家から新人作家に向けられたアドバイスとはどんな内容なのでしょうか?

 以下、望月さんの許可を得て、話題になったツイートにリンクが貼られていたnoteの記事「デビューしたばかりの作家さんへ伝えたい5つのこと(老婆心)」の内容をまとめたものをご紹介します。

アドバイス①発売前の宣伝

『告知OKになりましたらできれば、(本当にできればです)早めの告知をオススメします。』(以下、『』内の太字の文言は、実際のnoteの記事より抜粋。望月さんの許諾を得て掲載)
→書影も載せられたらより良いが、告知前に必ず出版社の許可は取ること。また読者目線で考えると、ツイートなどの文言は同じ内容をくり返すより、読みどころや表紙などについて萌え語りをしつつなるべく違う内容を発信するのがおススメだとも。

アドバイス②自著の宣伝の際、オススメしないこと

『宣伝の際、Amazonのリンクを貼って宣伝するのは、オススメできないです。(紙の書籍に限っての話です。Kindle等でしたら、しっかり貼ってください)』
→理由は読者に書店での購入機会を提供していないように見えてしまいかねないこと、さらに書店で売れる方が重版に繋がりやすいからなのだそう。望月さんのおススメは必要な情報が網羅されている「公式サイト」のリンクを貼ること。(※こちらは実際に望月さんが関係者に言われたことです)

アドバイス③発売後の書店まわりについて

『SNSを見ると、よく著者が書店まわりをしているわけで、「よし自分も!」と思うでしょう。書店まわりは必ず、アポイントを取ってから。これは必須です。』
→忙しい書店のスタッフの方たちへの負担を最小限にするためにも、事前に来店の意思を伝えアポイントを取ること、と望月さん。また出版社によっては書店まわりNGのところもあるので、何よりもまず担当編集者と相談することが必要だとのこと。

アドバイス④来店時に色紙などを用意する際は

『来店の際には、事前に書いておいた小さめの色紙を持参すると良いかもです。大きいのは邪魔になりがちなので、小さいのでしたら、使ってもらえるかもと』
→自分のサイン&メッセージを書いた本のサイズの紙を著書に挟んでもらうようお願いしてみても、と望月さん。

アドバイス⑤発売後の担当編集者さんとのやり取りについて

『発売後、あんなに密にやりとりをしていた編集さんから、ぱったり連絡が来なくなります。(中略)新人さんは、「売れてるのかどうか分からない」と、不安になったり、捨てられた気持ちになったりする方が多いのですが悶々とせずメールしましょう』
→さらに「自分の本を出版してくれた御礼を伝えたうえで販売数を伺い、ぜひ続きを書きたいという希望を伝えましょう」と望月さん。それで良い返事がもらえなくても「新作のプロットを送っても良い、という編集さんがいたらそのご縁を大事にしましょう」と、あきらめず書き続けること、臆さず担当編集者にコンタクトを取り続けることの大切さを望月さんは説きます。

おまけ(アドバイス⑥)名刺は重要です

『必ず名刺を作ってください。その一枚の名刺が、人の縁を繋ぎ、新たな仕事へとつながります。(メールアドレス掲載忘れずに)』
→デビュー前の方でもWEBの小説投稿サイトなどで作品を書いている人は名刺を作るのがおススメなのだそう。さらに作品のQRコードも忘れずに、とのこと。

◇◇

 いかがでしたか。作家デビューはこの上なく喜ばしいことですが、同時にプロとなった以上、作家は数々の未知の体験をたった一人でくぐりぬけていかなければなりません。その孤独な胸のうちに寄り添い、理解し、自らの経験から得た学びを惜しみなく与える望月さんの記事に

「一つ一つ深く頷きながら拝読しました!自分ができていなかったこと、気付けていなかったことがピシッと言語化されていて、本当に勉強になります。デビュー直後にこのnoteに出会えた方は幸せですね…」

「これからなるべく、公式サイトリンクをSNSには貼ろうと思いました!自分の作品も、ほかの作家さんのご紹介も。ためになる記事、ありがとうございました」

「すでにデビューから数年経ってますが、勉強になります……!!」

などとたくさんの作家から感動と感謝の声が寄せられました。

 望月さんがアドバイスを発信しようと思い立った経緯とそこに込めた思いをお聞きしました。

「あるツイートを見て、自身のデビュー作品が発売された日のことを思い出した」

――なぜこのようなアドバイスを記事にして書こうと思ったのですか。

この記事を書くキッカケは、ある書店員さんのツイートを見たことでした。書店にデビューしたばかり作家が突然来店して、発売したばかり自分の本がないと激怒して帰られ、とても怖かったという内容だったと思います。そのつぶやきを見た多くの人が、突然来店してキレた作家に非難の声を寄せていたんです。もちろん私も言語道断だとは思ったんですが、その作家の気持ちも分かってしまった、と思ってしまいまして……。

――作家にしか分からないことがある、と。

SNSを見ると多くの作家が、書店回りをし、サイン本を作っているわけですし、自分も発売したら、そうしよう、と意気揚々と書店に行ったら一冊もなかった。きっと愕然(がくぜん)としたんだと思うんです。
私もデビュー作品が発売された日、朝から近所の書店を見てまわり、何軒まわっても一冊もなくて、五軒目でようやく一冊だけ棚にあったのを見て、とても嬉しい日だったはずなのに、泣きそうになりながら帰ったことがありました。

――そんなことが…。

今になって振り返ると、知らなかったがゆえに失敗したり、傷ついたりしたことも多かったなと、と思いました。

たとえば、懇意にしていた小さな書店に自分の本が入荷されておらず、勝手に裏切られた気持ちになり、その店にしばらく行けないくらいショックだったのですが、そもそも本が入荷されていないのは、配本のシステムで決まっていることであり、その書店の意思ではないことを知らなかった。知っていたら仕方ないで済んだ話でした。

また、SNSで多くの作家が書店まわりをしているのを見て、自分も勝手に行っていいと思い込み、アポイントもなく訪れるも、文庫の担当者が不在で、双方どうして良いのか分からない気まずい空気のなか、『……あ、では、担当に伝えておきますね』と言ってもらい、猛省しながら帰ってきたこともありました。

発売後、自分の本の売れ行きがどうなのか、続編は出せるのか、ものすごく気になっていたものの担当編集者に聞くことができず、向こうから連絡がくるはず、と悶々とした気持ちで連絡を待ち続けた思い出もあります。

…こんな自分の失敗も踏まえ、この機会にデビューしたばかり作家に伝えたいことをまとめよう、と思いました。

――今回のアドバイスについて、ツイートには「怒られたらすぐ消します」と、noteにも「あくまで一(イチ)書き手の主観である」旨、一文記しておられます。世間によく名の知られた作家として、このような踏み込んだ内容を若手作家に向けて発信することにためらいはありませんでしたか?

やっぱり怖くもありました。こういうデリケートなことを伝えると、『それは違うだろ』とか『おまえごときが』と非難の声が届くのではないか、と。ですので、怒られたらすぐ消そうと思い、その旨も先に記載しました(笑)。

――真摯かつ心のこもった助言に、多くの作家から感謝の声が届いています。

思った以上に反響が大きく、そして温かいお声をいただけたのが嬉しかったです。特に嬉しかったのは、作家、書店員さん、そして出版社編集さんの三方からお礼を言ってもらえたことです。

作家からは、「誰も教えてくれないことだったから、本当にありがたい」「デビューしたばかりの頃にこの記事を読みたかった」と。

書店員さんからは、「現場の状況を伝えてくれて嬉しいです」と。

編集さんからは「我々が思っていても、なかなか伝えられないことをまとめてくれていて、本当にありがたかったです」とわざわざメールをいただけました。

◇◇

 さらに「そして特に書いて良かったなと思ったのは、発売後の担当編集者さんから連絡が来ず、自分からも連絡できず、苦しい想いをされていた方が本当に多く、『今度は怖がらずに連絡してみます』という声もいただけたこと、そして編集さんから『作家さんがそんなメンタルになっていたとは思っていませんでした。発売後もマメに連絡を取らなければと反省しました』と言っていただけたことです」と喜びの気持ちを語る望月さん。

 前述のアドバイス紹介部分では内容を短く要約していますが、実際の記事内では「一人で書店に電話するときの文言例」や「色紙を書店に渡す際のお願いの仕方」など、さらにきめ細やかに実践的な助言が書かれています。またデビュー前の作家の卵が名刺を持つ際には肩書きをどう表記するかについても言及されています。誰もが疑問に思っていたことに明快な答えを与え、創作活動を励ますこのアドバイスが長く広く読まれることを願わずにはいられません。

【望月麻衣(もちづき まい)さんプロフィール】
北海道生まれ、京都府城陽市在住。2013年「エブリスタ電子書籍大賞」を受賞し、作家デビュー。代表作の「京都寺町三条のホームズ」(双葉文庫)が2016年「第四回京都本大賞」を受賞、アニメ化される。同シリーズは現在19巻まで刊行され、累計部数は200万部を超えるベストセラー作家。他の著作に「わが家は祇園の拝み屋さん」(角川文庫)「太秦荘ダイアリー」(双葉文庫)「京洛の森のアリス」(文春文庫)など多数。

Twitter|@maimotiduki
note|https://note.com/maimotiduki0314/

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