クリームソーダ、ナポリタン、童心に返る「昭和レトロ」の世界!昼は「うたごえ喫茶」、夜はスナック 老若男女の笑顔集まる場に 店主のファッションにも注目

宍道 香穂 宍道 香穂

 雲南市三刀屋町三刀屋に2022年12月、昭和後期の雰囲気を再現した飲食店「三ツ星」がオープンした。近年ブームとなっている「昭和レトロ」な内装、クリームソーダといった昔懐かしいメニューが話題になり、幅広い世代が集う憩いの場になっている。

 店は三刀屋中学校のほど近く、住宅が建ち並ぶ道沿いにある。店主の星野かおりさん(54)は昭和レトロが大好きで、幼少期はピンクレディーといったスターに憧れ、歌やダンスをまねていたという。
 店内にはピンクレディーや近藤真彦さん、田原俊彦さん、吉川晃司さん、松田聖子さんなど1980年代ごろのスターの写真、レコードがずらり。本棚には昭和後期に流行した月刊誌「平凡」や「明星」の付録本が並び、50~60代の客が懐かしさで足を運ぶ。壁紙は花柄、照明はレトロなデザインで、天井にはミラーボールを設置した。昭和で流行した懐かしい雰囲気を再現している。星野さんは「歌謡曲やポップなファッション、デザインなど昭和の文化がとにかく大好き」と話した。

▽こだわりの世界観

 防音工事を施してカラオケを備え、昼は「うたごえ喫茶」、夜はスナックとして営業する。喫茶の飲み物や食事は昔懐かしい純喫茶風のメニューを用意し、昭和の世界観を楽しめる。
 看板メニューはクリームソーダ(500円)。ソーダは定番のメロンを始めイチゴ、ブルーハワイ、レモン、巨峰の計5種から選べる。色鮮やかなソーダの上にバニラアイスクリームとサクランボをトッピングした見た目は、かわいらしく、どこか懐かしさを感じる。

 クリームソーダの器は近年の昭和レトロブームで人気のブランド「アデリア」のグラスを使っている。デフォルメした花や果物の絵をあしらったグラスは誰もが一度は目にしたことがあるのではないか。コロンと丸みのあるグラスとカラフルなクリームソーダの組み合わせが愛らしく、見ているだけでわくわくする。ソーダを飲みながら少しずつアイスクリームを食べ進めていくのも楽しい。記者は平成生まれだが、子どもの頃に戻ったような不思議な懐かしさを感じた。
 クリームソーダのほかにもレモンスカッシュ、コーヒーフロート(いずれも500円)といった純喫茶風のメニューが充実している。

 食べ物もナポリタン(500円)、焼きめし(500円)、たこ焼き(400円)、あんバタートーストセット(500円)などレトロ感満載のメニューを用意する。昔懐かしいメニューは幅広い世代に人気で、酒を飲まない若者もランチや飲み物を目当てに訪れるという。

▽ファッションや歌で地域盛り上げ

 星野さんが身に付ける「昭和レトロファッション」も、店の雰囲気づくりに欠かせない要素。赤や緑、黄色といった鮮やかな色合い、華やかな柄が特徴で、ボウタイブラウスやシャツ、パンツ、スカート、カーディガンを自在に組み合わせる。こだわりがつまったコーディネートは毎日、店内などで撮影して写真共有サイト、インスタグラムで発信している。客からも好評で「スタイリングを手伝って」と頼まれ、服の買い物に同行したこともあるという。

 星野さんは「人を変身させるのが好き。地元のおばあさんたちから服をもらって着こなしをアレンジすることもあり、すてきねと言われるのがうれしい」と笑顔を浮かべた。
 ファッションへの興味は10代の頃からあったという。星野さんは中学時代からソフトボール部に所属し、指導者の誘いを受けて松江第一高校(現:開星高校)へ進学した。キャプテンとして全国大会に出場し、実業団や大学からのスカウトを受けていたが「ファッションの道に進みたい」と服飾関係の仕事に就いた。ショップ店員やスタイリストとして働きながら、約10年前からバンド活動も始めた。

 バンドは星野さんがボーカルを務め、知人らが演奏を担当する。センスを生かし、昭和のスターを思わせるきらびやかな衣装でステージに立つ。結成当初のメンバーは全員、名前のイニシャルが「K」だったため「内山田ひろしとクール5(ファイブ)」をもじった「星野かおりとクールK」のバンド名で活動する。新型コロナ禍の影響で近年は活動を控えているが、コロナ禍以前は松江市内の祭りやイベント、高齢者施設で昭和歌謡曲のカバーを中心に演奏していた。星野さんは「歌は人を元気に、健康にすると感じる。自分も、店で人が歌っているのを見ると元気が出る」と、歌への思いを話した。

▽同級生や仲間の支え

 2021年5月、星野さんは約30年暮らした松江市から地元の三刀屋町に戻った。2人だけで暮らす高齢の両親の面倒を見ることが目的だったが、活気がない地元を盛り上げられないかと考え、店を開くことを決めたという。

 店は父や祖母がかつて営んだ商店を改装して開いた。もとの商店は「三刀屋の星野」を省略した「三星堂」という店で、プラモデルやアイス、文具などを約60年にわたり販売していたが25年ほど前に閉店した。物置状態になっていた店を改築し、もとの店名をもじった「三ツ星」の名で2022年12月15日、喫茶・スナックをオープンした。

 「昭和レトロと言えば花柄」と壁は一面、花柄の壁紙を貼り、建具や小物もカラフルでレトロな雰囲気のものをそろえている。当初、知人からは「派手すぎるんじゃないの」と言われたが、完成するとしっくりとなじみ、中高年はもちろん、20歳の客からも「落ち着く」と言ってもらえる空間になったという。

 新型コロナ禍の中で店を開き、「ちゃんと人が来てくれるだろうか」と不安もあった。それでも「地元に残っていた同級生が支えてくれて心強く、楽しみという気持ちの方が大きかった」と話した。開店時は松江にいるバンドメンバーやマネジャーも駆けつけ、近くの文化体育館アスパル(雲南市三刀屋町古城)でオープン記念ライブをした。ライブはチラシで告知をした程度だったが、近隣住民や知人ら約80人が集まり、大盛況で盛り上がった。星野さんは「今この店があるのは知人たちのおかげ」と感謝を口にした。

▽女性や若者も入りやすい店に

 「スナック」のイメージを押し出すと若い人や女性が来店しづらくなるのではと、昼は喫茶メニューを提供し、カラオケで気軽に歌を楽しめるようにするといった工夫をした。市外や県外から移り住み、孤独を感じている人が気軽に集まれる場にしたいとの思いもあった。星野さんは「おかげさまで少しずつ、みんなの笑顔が集まる場所になっていると思う」とうれしそうに話した。現在は女性1人で来る常連客や、星野さんに人生相談をするために訪れる若者もいる。

 客層は20代~80代と幅広い。70~80代の客はかつて慣れ親しんだ雰囲気を懐かしみ、50~60代の客は幼少期に話題となったスターの話で盛り上がる。近年の昭和レトロブームにより20代の若者も「かわいい」と盛り上がる。

 うわさが人を呼び出雲や松江、石見地方からも客が足を運ぶ。最近は、もともと交流がなかった20代の若者と50代の客が意気投合し盛り上がる光景を目にしたという。店を通して人と人がつながるようになり、夢を実現できている手応えがある。

 大好きな歌、ファッション、昭和レトロを掛け合わせ、個性的な憩いの場をつくった星野さん。世代や性別を超えた交流のきっかけを提供し、町を盛り上げようと奮闘する姿に頼もしさを感じた。

 午前10時~午後4時は「うたごえ喫茶」、午後7時~午前0時はスナックとして営業している。日曜、祝日定休。

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