2019年の秋口のある日、横浜のショッピングモールに、リードに繋がれたゴールデン・レトリーバーとおぼしき大型のワンコが座っていました。そのかたわらには「この犬、拾ってください」と書かれた張り紙があり、捨て犬であることがすぐにわかりました。
「今どきそんなことがあるのか」と悲しみを覚えるばかりですが、心ある方が現れ、「捨て犬の大型ワンコを引き取ってもらえないか」と保護団体を10件ほど問い合わせしました。しかし、10件はいずれもキャパシティなどの諸事情からNG。11件目に問い合わせをしたのが東京・足立にある保護犬カフェPETSでした。
病院直行後、ノミだらけだった体をシャンプー
PETSのスタッフは一も二もなく、受け入れを承諾。すぐにその大型ワンコを引き取り、「めご」と名付け、まずは病院へと直行し、めごの検査をしてもらうことにしました。
めごの血液検査では異常がなかったものの、体はノミだらけ。同団体に戻ってすぐにスタッフはめごにシャンプーをしました。28キロもあるめごのシャンプーに対し、「自分の体力的にこたえました。夜にやるもんじゃないですね(笑)」とスタッフは振り返りますが、ここからめごとスタッフの、気持ちを通わせる生活が始まりました。
翌日からはめごがそれまでに過ごしてきた習慣を推測することにしました。トイレは室内トイレ・庭トイレ双方を簡単にでき、どうも馴れている様子。そして、お散歩ができるかどうかもチェックします。お散歩に行くためにリードを付けようとしましたが、めごは極度にこれを拒みました。
リードやお散歩を極度に嫌がる理由
めごがリードを極度に嫌がるのは、もしかするとあの日ショッピングモールに繋げられ、捨てられた記憶が残っているからかもしれません。
リードでつなぎ、去っていく元飼い主の背中を、めごはどんな気持ちで見つめていたでしょうか。それを思うと憤りを通り越し悲しくなるスタッフでしたが、怒ったり嘆いても、これからのめごが幸せになるわけではありません。めごに「ごめんね」と言いながらリードをつけ、さっそくお散歩をすることにしました。
すると、めごはスタッフの足の周りをグルグルベタベタとまとわりつき1メートルも動きません。スタッフは一瞬「お散歩されていなかったのかな?」と思いましたが、お家のほうに帰ろうとすると一転。めごは安心しきった顔でスタスタ歩き出します。やはり「お散歩」を拒む理由もまた、捨てられた記憶が強く残っているからではないかと感じさせました。
スタッフはまた目頭が熱くなりました。「もう大丈夫だからね。私は捨てないよ。絶対に捨てないから安心してね」とめごに言い聞かせました。同時に、めごは、里親さんへの譲渡ではなく「PETSの看板犬」としてスタッフ自身がずっと一緒に過ごすことに決めました。
少しずつ不安が解けていった
少しずつお散歩になれ始めためごですが、ときどき振り返ってはスタッフの表情を確認します。「大丈夫だよね? 私のこともう捨てないよね?」と言わんばかりの様子です。そのたびにスタッフは「大丈夫だよ」「一緒にいるよ」とめごに言いました。
スタッフは、「はたから見ると、独り言の多い人が散歩しているようで、怪しく映ったかも」と笑いますが、この優しさと愛情が少しずつめごに通じていきます。
めごには腰と股関節に不安があり、てんかん発作を起こすこともありました。スタッフはその度に適切な処置を施し、てんかん発作を抑える料理を作って食べさせたりと、たっぷりの愛情を注ぎ続けました。
「里親代行を承ります」と言い続けたい
今日もめごは「PETSの看板犬」として、多くの保護犬たちと穏やかに暮らし、同団体を訪れる人たちの癒しの存在として活躍しています。スタッフと毎日を過ごし、めご自身が安心して過ごせていることも、その穏やかな表情につながっているように思います。
スタッフは話します。
「私がPETSを始める際、強く思ったことは『ワンコを保健所に連れて行く前に、うちに相談に来てほしい』『外にワンコを置いてくる前に、うちに相談にきてほしい』です。
『ワンコを手放したい』と思っている人は、1円だってかけたくないし手間もかけたくないと思っており、『もう保健所でいいじゃん』くらいに考える人が多いので、私が考えた当初の思いが『甘い理想』と思う人がいることもわかっています。
でも、それでも私は言い続けたいです。『里親代行を承ります』と。めごとの出会いは、そんな思いを改めて自覚し、強くさせてくれました。これからも、めごや多くの保護犬との絆を深めながら、私は活動を続けていきます」