「誕生日会は初めてです」受け入れ先でのサプライズに感極まるカンボジア技能実習生 「温かな職場」「日本人の誇り」と反響

鶴野 浩己 鶴野 浩己

「誕生日会は初めてです」

社内で行われた誕生日会で、嬉しさを滲ませるカンボジア技能実習生の動画がInstagramで注目を集めています。

 

誕生日を迎えたのは、20歳になるタカさん。日本に来て約8カ月になります。

タカさんが技能実習生として働く三重県津市の外壁塗装専門店「日塗建(にっとけん)」では、毎年、全従業員の誕生日会を開催。常務取締役の吉田美香さんが、毎回従業員たちへの小さなサプライズを考えています。

この日は、タカさんが食べたがっていたハンバーグを手作りで20個ほど用意。サプライズプレゼントとして、タカさんのふるさとの味・ナンプラーをタッパーに忍ばせ、チキンライスで覆い隠してからハンバーグを乗せました。

ハッピーバースデーの歌声とクラッカーの音が響く中、運ばれてくる山盛りのハンバーグ。主役のタカさんは両手を合わせて、嬉しそうに料理を見つめます。さらに社長の朝倉さんが大きなホールケーキを持って登場し、「おめでとう!」と肩を叩くと、何度も何度も頭を下げてお礼の気持ちを伝えます。

そんな、和やかなムードで始まった誕生日会。ハンバーグを食べながら、タカさんがこう話し出します。

「誕生日会は初めてです。私はぜんぜん誰からもやってもらったことがないです」「とっても嬉しい」

 「誕生日会初めてなん?」と驚く朝倉社長に、もう一人の技能実習生、ジンさんが代わりに答えました。「カンボジアでは誕生日会をやるのはお金持ちだけ。生活が苦しい人はやっていない」

それを聞き、思わず「食え食え!」とチキンライスを皿によそおうとする朝倉社長。もうお腹がいっぱいなのか「いや、もう…」と笑うタカさんの様子に、職人さんたちもつられて笑い出します。

なんとも温かなこの投稿には7万件のいいねが集まり、

「外国人の技能実習生を過酷な労働環境で働かせているニュースを見るたびに心が痛んでいた。笑顔でごはんを食べている動画を見られて嬉しかった」

「以前、技能実習生たちに暴行する映像をテレビで見て、同じ日本人として恥ずかしく思った。こんなに温かい職場があることが知れてとても嬉しくなった」

「よくない話題ばかり目立つ技能実習生。いい関係を築けている会社もあると広く知ってほしい」

「日本人の誇りです」

といったコメントが数多く寄せられました。

動画を撮影した吉田さんに、技能実習生として働く彼らの日常や、サポートへの想いを聞きました。

 

日本に来てくれてありがとう

—生まれて初めての誕生日会。タカさん、とても嬉しそうでしたね!

「まさか誕生日会をしたことがないとは思ってもいなかったので、初めてだと聞いた時は『文化の違いかな?』と考えました。しかしジンから理由を聞いて、胸が締め付けられてしまいました」

—彼らにとっては、すごく特別なことだったのですね。

「確かにカンボジアから来てくれている子たちは、日頃からちょっとしたプレゼントでも心から喜び、感謝してくれます。たとえば、従業員たちを誘って食事に行く時も『本当にいいんですか!?』と驚き、毎回すごく感謝してくれる。また、日本の寒い冬が辛そうだからと社長が温かいインナーをプレゼントした時も、ものすごく喜んでいました。ですからタカの誕生日では、私からは裏起毛の赤いパーカーを贈りました。それもとっても喜んでよく着てくれています」

—動画を拝見すると、先輩の職人さんたちとも仲が良さそうです。

「そうですね。職人たちはみんな、彼らのことを可愛がっています。タカもジンも車の免許を持っていないので、買い物なんかは職人たちがよく車を出してくれています。彼らも日本に来た頃はホームシックで毎晩のように泣いていましたが、今では職人たちと冗談を言い合うくらい打ち解けて、私のことも『ママ』と呼んでくれるようになりました」

—20歳といえば、日本ではまだ学生の子も多い年齢です。家族に会いたいでしょうね。

「社宅の部屋には、2人ともカンボジアの家族の写真を飾っています。七夕の時も『願い事を書くんだよ』と短冊を渡したら、『日本で仕事をして、家族に大きな家を建ててあげたい』と書いていました。毎月の給料も、必要最低限の生活費だけを残して、あとはすべて家族に送金しています。家族思いで謙虚で素直で、どんな仕事でも率先してやろうとしてくれる。こちらの頭が下がります」

—とはいえ、技能実習生の受け入れには企業側の覚悟も必要です。そもそも、受け入れを始められた理由は?

「管理団体さんからご提案していただき、受け入れを始めました。タカとジンの前にもカンボジアの技能実習生を1人受け入れたことがあり、その子も3年間しっかりと働いてくれました。『また来たい』と言ってくれていて、こちらとしても是非にと思っています」

「彼らは3年間の実習期間の間、筆記と実技の試験を何度か受けなくてはならなくて、それに落ちると日本にいられなくなります。ですから、仕事と並行して試験に向けた勉強もずっとがんばっている。知識も技能もどんどん身につけていくので、戦力としてもすごく助けられています」

技能実習生の両親に会いに行く

—今回の投稿は大きな反響がありました。コメントも1000件以上届いていましたね。

「温かなコメントと同時に、失望して帰国する実習生もいるなど、考えさせられる声をたくさんいただきました。そうしたコメントにひとつずつ返信していくうちに、『何か懸け橋になるようなことはできないだろうか』と考えるようになりました。私にも県外で暮らす息子がいるので、見知らぬ土地に息子を送り出したご両親の気持ちを思うと、たまらなくなったのです。そこでひとまず今年の春に、タカとジンのご両親に会いにカンボジアに行くことを決めました」

—ご両親にどんなことを伝えたいですか?

「彼らが日本でどのように暮らし、どんな仕事をしているのか、動画にして見てもらおうと思っています。そして、私自身の目で、彼らの育ってきた環境や、現実の生活をしっかりと見てきたい。できることは限られていますが、大切な子どもたちを預かる身ですから、少しでも『日本に行かせてよかった』『日本に来て良かった』と思ってもらえる環境を整えていきたいですね」

 

差別や過重労働など、日本での技能実習生受け入れにはまだまだ多くの課題があります。しかし、日塗建のように「人として」向き合おうとする企業も少なからず存在します。吉田さんが取材中にこぼした「日本に来てくれてありがとうと心から思うんです」という言葉。様々な問題を解決する第一歩は、この心の持ちようなのかもしれません。

 

▼日塗建Instagram

https://www.instagram.com/nittoken/?hl=ja

▼日塗建ホームページ

https://nittoken.jp/

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