国宝・投入堂の山の麓になぜ? ユルいネーミングのスイーツが登場、自販機でドーナツ、カステラを販売

山陰中央新報社 山陰中央新報社

 国宝・投入堂で知られる三徳山(鳥取県三朝町三徳)にちなんだ名前のスイーツを販売する自販機が麓に登場した。スイーツは「なげいれどーなつ」「権現サンド(参道)」と、厳かな境内や参道の雰囲気とは真逆の、緩いネーミングが目を引く。現地を訪ねた。

 三徳山は標高約900メートルで中腹に複数の寺院がある。このうち三仏寺の奥院は断崖絶壁のくぼみに建てられ、修行僧が柱を投げ入れて建築したという言い伝えから、投入堂と呼ばれる。

 自販機は登山道近くに店を構えるスイーツ店「白狼堂」の店頭にある。高さ180センチ、横幅116センチ、奥行き67センチ。表面には三徳山や投入堂、地元にまつわる白狼伝説の絵がラッピングされている。商品が3段分あるうち、上の2段は通常の清涼飲料水だが、残る1段にはドーナツやカステラといったスイーツが並ぶ。

 お寺、参道、銅鑼…モチーフさまざま

 「なげいれどーなつ」(2個600円)は投入堂とドーナツをかけた名前のスイーツ。三徳山の神様がいるとされる場所「神倉(かんのくら)」で栽培された大豆と、米粉を使った焼きドーナツで、抹茶、ほうじ茶、チョコなど味にもバリエーションがある。

 「生神住寺(なまカステラ)」(650円)は鳥取県湯梨浜町の農家の卵を使用した、口溶けの良いスフレカステラ。投入堂は寺院でありながら神社建築であるという特徴にちなみ「神が住む寺」という文字を当てた。このほか、バタークリームと大納言小豆をクッキーで挟んだ「権現サンド」(4枚入り千円)、仏具の銅鑼(どら)にちなんだ「銅鑼焼き白狼」(2個セット600円)、投入堂に隣接する愛染堂の名を冠した「愛染ショコラ」(450円)の全5種類を扱う。

 白狼堂の米田広美店長(46)に聞くと、商品名は米田店長が自ら考えているとのこと。三徳山スイーツの人気は高く、自販機に一度に入れられる上限は8~10個だが、一日に何度も商品を追加しなければならないほどだという。米田店長は「山の麓という立地にもかかわらず、多くの人に来てもらえてうれしい」と驚いている。

 せっかく現地まで来たので味を知りたいと思い、自販機で「生神住寺」を購入し、すぐ横のベンチに座って食べた。濃厚な卵の味わいと、くどさのないさっぱりとした甘さが口中に広がる。食感は、安めのカステラにありがちな、ケーキのスポンジのようなパサパサ感はなく、しっとりとした口当たりで、とろけるよう。ハーフサイズと書いてあったが、1人で食べるには十分なほどのボリュームがあった。米田店長によると、ジャムや生クリームを載せて食べてもおいしいという。それを聞き、カステラ目当てに何度も通いたくなった。

 夫の僧侶転向を機に

 自販機を設置したのは2022年8月。米田店長が育児で多忙だったことや、新型コロナウイルス禍によるテイクアウト需要の高まりといった状況を受けて、導入した。

 パティシエでもある米田店長は、鳥取県琴浦町でケーキ屋を2000年から19年まで経営した。夫の良順さん(44)が三徳山輪光院の副住職になったのを機に店を後進に譲り、自身は4月、山の中腹にある輪光院の境内で寺カフェを開いた。しかし、20年にコロナが流行。寺を訪れる人の減少に加え、山奥という立地のためテイクアウトができず、休業を余儀なくされたという。

 店を人が訪れやすい麓に移し、21年10月に白狼堂として再出発した。「わざわざ山に来てもらうためには来たくなる理由が必要」と考え、三徳山に関する名前のスイーツを考案した。これまで目立ったお土産がなかった三徳山のPRも兼ね、インスタグラムといった会員制交流サイトでも積極的に発信した。うわさを聞いた大阪市の企業から自販機設置の打診があり、新たな業態につながった。

 店は自販機設置前からたびたび行列ができるほどの人気で、現在は行列で待つ人が待ち時間に自販機で商品を購入するなど相乗効果もあるとのこと。自販機が24時間年中無休で稼働する点も、営業時間が比較的短い店の形態に合っていた。

 自販機は冷蔵と常温が切り替えられるため、今後もさまざまなスイーツを考案、販売していくという。米田店長は「スイーツを通して三朝町や三徳山を身近に感じてもらえればうれしい」と笑顔で話した。

 思わずくすりと笑ってしまうような、ユニークな商品名のスイーツたち。三徳山で参拝、登山する際は話の種にぜひ買ってみたい。白狼堂の営業時間は午前10時半~午後3時。店休日は毎週火、水曜。

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