屋外で小鳥などを捕食し、懸命に生きた猫がいます。大阪府で暮らす小虎さん(推定10歳)です。7歳ごろまで外で過ごし、あるきっかけでT家で暮らすようになりました。
それまでのことは、よく分かっていません。ある日、突然庭先に現われたのです。耳はカットしてあったので、TNRされた猫なのでしょう。しかし、近くに餌場はなく、餌やりボランティアさんもいません。本当にどこから来たのかも分からない猫なんです。
帰ってくる猫
大阪府といえど、自然豊かな場所にあるT家。庭が広く、隣家とも距離があります。そんなT家の庭に小虎さんが現れたのは、2019年晩夏のことでした。
この家で一人で暮らすTさんが廃棄予定の座布団を木製の室外機カバーの上に置いたところ、そこにデンと寝るようになったのです。Tさんは「困ったな」と思いました。というのも、Tさんは猫が苦手なんです。小学生のころ、目の前で友達が猫に噛まれて流血したのを見てから猫が怖い。
けれど、小虎さんを追い払う気分にはなりませんでした。去年、愛犬を虹の橋のたもとに見送ってから、動物と触れ合う機会がなかったからです。元々動物好きですし、猫とはいえ小虎さんはあまり怖く感じません。
「そこにいても良いよ」
小虎さんにそう声をかけました。それから、小虎さんは夕方になると座布団の上にやって来るようになったんです。朝はTさんが洗濯物を干すのを見届けてから、どこかに行っているよう。でも、洗濯物を取り入れる時間には戻ってくる。
座布団を捨てるまで、小虎さんは毎日やって来ました。座布団がなくなったら来なくなるかと思いきや、「帰って」くるんです。Tさんはご飯をあげていないのにも関わらず。
お腹は空いていないの?
どうやら小虎さんはT家が気に入ったよう。そこでTさんは、ペット用ベッドを小虎さんのために新しく購入してきました。座布団のあった場所に防水加工した段ボール箱を敷いて、そこへ新しいベッドを。
小虎さんは何の疑問も抱かず、フカフカのベッドに身を横たえます。ベッドで眠る小虎さんを見て、Tさんはこう思ったのだそう。
「猫って小さくて可愛いんだな」
小さいといっても、小虎さんの体重は当時推定7キロ。猫の中では大きい方です。でも、Tさんが虹の橋のたもとへ見送った愛犬は、55キロありました。小虎さんは愛犬のおおよそ8分の1の体重ですから、小さいといえば小さいかも。
小虎さんはというと、Tさんが庭で作業をすると後追いをして、Tさんがご近所の人と立ち話をすると「にゃーにゃー」と鳴き自分も会話に加わる。繰り返しますが、Tさんはご飯を一切あげていないんです。しかも、近所の人が煮干しをあげようとしても、小虎さんは口にしません。お腹が空いていないのでしょうか?
小虎さんを家の子にしないと
そんな関係が半年ほど続き、季節は冬。ペットベッドはキャットハウスに進化をし、中にはカイロも入れてあるものになりました。小虎さんは庭で過ごす時間が増えていきます。相変わらず小虎さんはTさんと顔を合わせるのが嬉しそう。Tさんも「ずっといてくれないかな」と思うようになっていました。小虎さんのトイレ代わり、花壇の掃除も日課になっていたんです。
でも、人間からもらう食べ物は受け入れてくれないかもしれない。小虎さんはどうやら、小鳥や小動物を捕獲して生きながらえている様子。人間の暮らしに慣れるとは思えませんでした。でも試しに煮干しを2本、小虎さんに差し出しました。
見慣れない物が目の前に置かれた小虎さんはというと、「みゃあ!」と嬉しそうに一声上げるとパクパク食べ始めました。Tさんからなら、人間から出された食べ物を口にしてくれるみたい。Tさんは慌ててキャットフードを買いにいきました。
その後はキャットハウスの周りに、お水やおやつ皿も置かれるように。しかし、このおやつ皿がいけなかった。小虎さんだけでなくアライグマも来るようになったんです。凶暴なアライグマが小虎さんに危害を加えてはいけない。そう思ったTさんは、小虎さんを家の中へ迎え入れることにしました。2020年4月のことです。
突然の引越し、そしてプロポーズ
平和な日々が続くかと思っていた矢先、突然引っ越すことになりました。ずっと売りに出していた家が売れたのです。
工期の関係で3カ月以内の退去と、とても忙しいスケジュール。Tさんが新たに選んだ家は、もちろんペット可のマンション。しかし、小虎さんがついて来てくれるか…。家に入れてから気付いたのですが、小虎さんはTさん以外の人間が怖いみたい。
これからのことを小虎さんに話せないまま迎えた、引越し当日。たくさんの人が家に出入りをし、小虎さんはビクビク。庭に逃げていました。
荷物が全て運び出され、空っぽになったのは夕方のことです。引っ越し先から家に戻ってきたTさんは、ある決心を固めていました。その決心が伝わったのか、小虎さんは家の勝手口で待っています。その小虎さんにTさんは言いました。
「もう、ここにはいられません。お外にも出られません。でも、絶対に幸せにしますから、ついてきてくれませんか」
まるでプロポーズ。なかなか小虎さんを家の子にする決断を下せなかったTさんの、ありったけの想いを受け止めた小虎さん。彼の答えは、Tさんの片脇に置かれたキャリーケースに自分から入ること。季節は間もなく梅雨に差し掛かろうとしていました。
選んでもらえたのだから
引越し先のマンションは、今までとは違い庭もなく広くもありません。Tさんはキャットタワーやおもちゃで快適に過ごしてもらおうとしますが、小虎さんは楽しみ方が分からないみたい。ハントは生きるための行動で、毎日ご飯が出てくる今ではする必要がないからです。
それならばと、家具を組み合わせて階段状にすると、小虎さんは喜んで上がってくれました。これで運動不足にはならないかな。猫と暮らすのが初めてのTさんは、小虎さんとの毎日は驚きと喜びの連続です。
「絶対に幸せにします」
こう宣言したあの日から、Tさんの幸せがどんどんと増えていっているんですよ。小虎さんも、きっとそうです。だって、お腹を見せてぐっすり眠る不幸な猫なんていませんから。
いつまでもこの穏やかな時間を。
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▽飼い主さん(小虎さん)
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