70歳の祖父にとって生き甲斐なのに病気に… 2年ぶりに20歳孫が帰省し実現 素人とは思えない巨大イルミネーションに

山陰中央新報社 山陰中央新報社

 島根県安来市伯太町の山あいで、住民が制作する大規模なイルミネーションを記事で紹介したのは1年前。今年は2倍近い規模になっているとのうわさを聞き、再び訪ねた。

 イルミネーションがあるのは安来市役所伯太庁舎(安来市伯太町東母里)から、県道9号を南に6キロほどの伯太町横屋の田んぼ。昨年は田んぼ(1500平方メートル)で、チューブ状の照明で形作られたアニメキャラクターや動物のイルミネーション(高さ4メートル)が輝いていた。

 現場に行ってみると、今年は昨年の田んぼに加えて、道路を挟んだ向かいの田んぼ(3千平方メートル)にわたってきらびやかなイルミネーション約20体があった。昨年もあったトナカイ、クジラといった定番の動物やアニメ作品「となりのトトロ」「鬼滅の刃(やいば)」のキャラクターに加え、今年は人気アニメ「SPY×FAMILY(スパイファミリー)」のキャラたちが仲間入りした。今年の干支(えと)の「卯」に合わせた、神話「因幡の白ウサギ」のワンシーンを描いたものなどバリエーションはさらに広がっていた。

 新しく加わったゾーンでは開いたビニール傘に下から光を当てることで、色鮮やかな空間を演出していた。周りに街灯はほぼなく、暗闇に浮かび上がる色とりどりのイルミネーションが幻想的な世界にいざなってくれる。

 病気の祖父のためにも

 昨年のイルミネーションは約15年間続ける総合建設業社長の種平英寿さん(70)が制作した。英寿さんが毎年制作していたところに、孫の遥斗さん(20)が小学生の頃から加わり、2021年に県外に進学した遥斗さんのためにも制作を続けている、というストーリーを取材し、紹介した。

 英寿さんは昨年、病気のため入退院を繰り返すようになった。新型コロナウイルス禍による移動制限などが緩和されたため、今年は遥斗さんが帰省し、祖父のためにも2年ぶりの制作を決めたという。

 遥斗さんのイルミネーション制作の腕は地元では有名。毎年、安来市役所(安来市安来町)に設置されるイルミネーションの一部は、遥斗さんが高校生の頃に作ったもので、県外に出る前は自宅でさまざまな作品を披露してきた。

 制作はキャラクターの絵を見ながら、ワイヤーメッシュと呼ばれる格子状の柵に、照明を引っかけて作る。照明がチューブ状のため、ほぼ一筆書きで形作らなければならず、照明を曲げすぎると断線することもある。長さや角度などを計算して作る必要があり、大変な作業だ。

 遥斗さんは昨年10月から、帰省のたびに少しずつ制作を進めた。時には熱が入り、翌日の午前3時まで作業したこともあったという。苦労のかいあって、12月初旬に点灯を始めると、写真を撮る人が多く訪れるようになったといい、遥斗さんは「友人からも『今年も見たよ』と連絡が入った。見た人から感想をもらうたびに、作ってよかったと感じる」と笑った。

 新年カウントダウンすら作品に!?

 今回、遥斗さんが最もこだわったのは因幡の白ウサギのイルミネーション。凶暴そうなサメが3匹と、それを踏むように跳ねる姿のウサギが1匹いる。神話の中で、ウサギがサメの背を踏み海を渡ったというくだりを再現した作品だ。

 昨年12月の設置当初、最も右のサメの近くには「2022」と描かれたイルミネーションが、最も左には「2023」と描かれたものがあった。新年が近づくにつれてウサギの位置を右から左に移動させ、新年へのカウントダウンを演出した。年越しを作品で表現する、遥斗さんの創造力と遊び心が光っている。

 遥斗さんは「ぜひ見に来て写真を撮り、インスタグラムなどに上げてほしい」と呼びかけた。英寿さんも「孫がいない間は自分がなんとかしないといけないと思っていたが、作りに帰ってくれて本当に助かった。よく考えて作っているなと感心した」とほほ笑んだ。

  祖父と孫、2人の思いが詰まった壮大なイルミネーション。素人とは思えないクオリティを誇る作品の数々を、撤去される前に見ておきたい。イルミネーションは1月いっぱいまで、日没~午後10時頃に見ることができる。

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