「分類変更をしたら、医療ひっ迫が改善する」わけではない
第8波でも医療ひっ迫が問題となっていますが、「新型コロナを5類にすれば、医療ひっ迫が改善する」という話は、私は必ずしもそうではないと思います。入院と外来とで、事情は異なりますが、いずれにしても、原因が何であるかを正しく分析しないと、問題は解決しません。
まず、入院について見てみます。
「新型コロナの患者が入院できる医療機関が、特定、1類、2類の指定医療機関に限られているから、受け入れる病院が少ない」という説は、事実認識が正しくありません。感染症法上、「緊急その他やむを得ない理由があるときは、指定医療機関以外で知事が適当と認める医療機関に入院させることができる」(26条2項で準用される19条1項但書き)とされており、実際に指定医療機関以外の病院で新型コロナウイルス感染症の患者を入院させています。
例えば、東京都には、指定医療機関は37病院(特定:1病院,1類:4病院,2類:32病院)ですが、実際には142病院が「新型コロナ感染症入院重点医療機関」に、84病院が「新型コロナ感染症疑い患者受入協力医療機関」に指定され(一部重複あり)、新型コロナ患者の受け入れ病院となっています。(2022年10月1日時点)
「医療のひっ迫」は、日本では、規模の小さい多数の病院に、限られた医療資源(医療従事者、病床、設備など)が分散されてしまっていることに、根本的な要因があります。日本は、人口当たりの病床数は世界一ですが、人口当たりの医師の数は少ない(OECDの38加盟国中、下から4番目)という状況にあります。病床や人材や設備が足りないといった理由から、新型コロナ患者を受け入れていない病院も多く、それは、分散とキャパシティの不足といった構造的な問題です。そして、病院の大きな懸念は、「クラスターが発生して、他の患者さんが亡くなったり、医療スタッフが感染して、人手が足りなくなり、現場が回らなくなること」です。こうした点は、分類を変更しても解決しません。
次に、外来について考えてみます。
各都道府県ごとに、全医療機関のうち「発熱外来」を設置している割合は、約 20%から 60%まで、大きな開きがあります(2022年4月厚労省公表)。つまり、各都道府県において、約40%から80%の医療機関では、新型コロナの外来診療をしていないという状況にあります。地域の診療所では、「ゾーニング(空間分離)ができない」、「医師が一人しかいない」「スタッフや他の患者にコロナが広まっては困る」といった理由で、コロナ診療に消極的なところも多くあります。
「厳しい院内感染対策を求められることが、医療機関の対応を難しくしている」という話があります。昨年6月に「効果的かつ負担の少ない医療現場における感染対策」(厚労省通知)として、「『フルPPE(マスク・手袋・帽子・ガウン・目の防護)の個人防護具』、『外来の厳格な時間・空間的分離』、『入院の病棟単位のゾーニング』といったことは必須ではない」とされているのですが、それがあまり現場に浸透しておらず、あるいは、たとえ基準が緩和されても、「スタッフや他の患者を感染させたら困る」という根本的な不安は解消されないため、発熱外来は増えないといった事情もあります。
こうした問題は、行政や医療、そして社会全体の受けとめとして、新型コロナに対する”忌避感”が減り、例えば「通常のインフルエンザ流行時のような対応で問題ないし、責められないのだ」という風に、医療機関自身が考えることができれば、変わっていくと思います。他の医療機関も横並びで変わることや社会の理解が大切ということになります。
その意味では、新型コロナの分類が変更されれば、現在発熱外来を行っていない「約40%から80%の医療機関」において、診察が行われる方向が期待でき(むしろ、拒否することが難しくなります。)、少なくとも外来における医療ひっ迫の問題は、改善が見込めるだろうと思います。
次回は、規制や公費負担の変容、私たちの心構え等について、考えたいと思います。