長崎大学病院では口腔外科医の歯科医師が予定していた歯とは別の歯を誤って抜くという医療事故が置き、その報告も怠っていたことが分かり、6日に発表しました。そこで歯科医芸人の”パンヂー陳”こと陳明裕さんに聞いてみたところ、長崎大の教授とは浅からぬ縁があったことが分かりました。口腔癌の権威だそうです。そんな立派な人のもとで、なぜ、こんなことが起こるのでしょうか。(聞き手・山本 智行)
口腔外科診療の原則停止を発表
――長崎大学病院で誤って違う歯を抜く「誤抜歯」の医療事故が起きました。しかも、誤抜歯が起きたのは3年連続で病院では体質的な問題があるとして口腔外科診療の原則停止を発表しましたが、なんでこんな事が起こるんですか?
陳明裕(以下陳):このニュース、私も見ました。誤抜歯って言うと大事件に聞こえますけど、よく読むと「親知らず」を抜く順番を間違えただけの話ですよね。
――”だけの話“って。いまどき、何を言うてはるんですか。家庭ゴミの日だって、出す日を間違えたらマンション中の人から白い目で見られるご時世なんですから。誤抜歯が単に順番の間違いだったとしても許されへんでしょう。
陳:確かにそうなんですが、私が想像するに、多分、間違えた歯医者さんは遅かれ早かれ、どうせ抜くんだからと考えたんでしょう。要はズボンを右足から履くか、左足から履くかの違いみたいな認識なんだったと思います。
――ズボンだって、人によったら左足から履かないと、その日1日気持ち悪いって方だっていらっしゃると思いますよ。しかも「間違えた事を病院に報告しない」ってゴミ出しじゃない日に、こっそりゴミを捨てるようで、どこかやましさを感じます。そもそも、抜く前にちゃんと確認をしないんですかね?
陳:普通はすると思います。私が大学病院にいた30年も前から抜歯の前には、これから行う処置の確認のため、言葉で伝えた上で、必ず患者さんに鏡で見てもらって確認するよう言われて、そうしていました。
口腔癌では日本の第一人者のひとり
――じゃあ、長崎大学では、それを徹底してなかったのですかね?
陳:いえ、今回関わっている長崎大学の教授は私が大学病院にいた時の先輩で、一緒に5年以上働きましたから人となりはよく存じています。絶対、同じ様に指導はされていたはずです。もし、当時の医局で理想の上司の投票があったら僕は第1位にこの先生を入れてたと思うぐらい人望の厚い人。それに口腔癌では日本の第一人者のおひとりです。今でももし、自分や身内の者が口腔癌になったら多分、真っ先にこの先生に相談すると思います。
――じゃ、なぜ、こんな事が起こるんですか?
陳:詳しい事情は分かりませんが。どこのクラスにも担任の先生の言いつけを守れない子はいますからね。あってはならないことですが。
――小学生じゃないんですから大学病院の先生は全員守ってくれないと困るからこうして問題になってるんですよ。そもそも親知らずって必ず抜かないといけないんですか?置いといたら役に立つことだってあるんじゃないですか?
陳:はい、対合歯があって咬合していれば普通の歯と同じに使えますし、対合歯がなくても歯をなくした際に、義歯の維持装置をかけたり、ブリッジの支台歯に使用でき、移植歯として使う可能性だってあります。でも、一番奥なので清掃が困難なため、食物が挟まったり、磨き残しから歯周病のリスクを増やすなど、悪い点もたくさんあります。特に、女性の場合、妊娠初期に智歯周囲炎を起こすと抜くに抜けない上、薬も飲めない状況になるリスクもあるので結婚前に抜かれる方も結構いらっしゃいます。デメリットについて詳しいことはまた別の機会にでも。
――じゃ、陳さんは親知らずは全部抜いたんですか?
陳:僕は幸い元々1本しかなかったんですが、抜くのは怖いから、そのまま置いてます。
――ええっ。患者さんには親知らずを抜くよう勧めてはるのに、自身は抜いてはらへんのですか?
陳:理屈では分かっていても怖いものは怖いですから。お化けなんかいないと分かっていても、ホラー映画を見た後、シャンプーの時、目を閉じられないのと同じで、そこは理屈じゃないんです。
――なんじゃそりゃ!あと、親知らずがちゃんと、はえないのは現代人は柔らかいものばかり食べて、よく物を噛まないからだと聞いた事があるんですが、これは本当ですか?
陳:日本歯科医師会のホームページでは「親知らずの埋伏や欠損は、クロマニヨン人においてもすでに発現していて、弥生時代からすでに珍しくない現象であったようです」とあり「現代人になって急激に親知らずの先天性欠損や、親知らずが生えないことが増えたという感覚を持つ人が多いようですが、現代人においてすべての親知らずが生える頻度が増加し、親知らずの先天性欠損が減少したという調査結果もあります。近年になって爆発的に増えたわけではないのです。(一部抜粋)」となってますから、それは間違った認識のようです。
――いずれにしても、この事件は3年連続で誤抜歯が発生しているとのことですし「体質的な問題がある」とのことなので、患者さんのためにも、早急に意識改革も含めた立て直しを図っていただきたいものです。