NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」がクライマックスを迎えようとしています。しかし、源頼朝が口腔ケアをしっかり受けていたら違ったストーリーになっていたかもしれない、と横やりを入れる専門家がいました。歯科医芸人の”パンヂー陳”こと陳明裕さん。いや、日本歯科医師会のホームページでも取り上げられているそうです。なぜ、そう言えるのか、聞いてみました。(聞き手・山本 智行)
--「鎌倉殿の13人」もいよいよ佳境に入って来ましたね。小栗旬があんなに冷血な人間だとは思いませんでした!
陳明裕(以下陳):冷たいのは小栗旬さんじゃなくて、北条義時がってことですね。鎌倉殿にちなんで言えば、源頼朝は歯周病が酷かったそうです。
--えっ?そうなんですか。そういえば、頼朝役の大泉洋さんはライオンのCM出てました。
陳:大泉洋さんは胃腸薬のCMだったかと思うんですが、実は歯科医師会ホームページ「雑学いろいろ」(https://www.jda.or.jp/park/knowledge/yoritomo.html)に歯周病が頼朝の死因の一端ではなかったか、と記載されています。
--えー!歯科医師会のホームページに。しかし、歯周病で、死んだりします?頼朝は落馬したんでしょ?
陳:はい、最近の社会科の授業では少し変わって来ているようですが、私が子供の頃は「いい国つくろう鎌倉幕府」と語呂合わせで習ったように頼朝は1192年に鎌倉幕府を開いたとされていました。しかし、1198年12月27日、橋供養からの帰路に落馬。体調を崩し、翌年1月13日に帰らぬ人となったとされています。「鎌倉殿の13人」は頼朝の死後、嫡男でまだ若い頼家の補佐を目的に発足した御家人による集団指導体制のことなんですね。
--勢いよくしゃべってますが、話が横道にそれてません?頼朝は落馬して体調壊して亡くなったのに、それと歯周病とどう関係があるのでしょうか?
陳:私が言いたいんは頼朝が口の中を”清盛“じゃなく“清潔”にしていれば、ってこと。そりゃ、歯医者の私でも、死亡診断書の死因に歯周病って書かれているのは見たことありません。ただ、頼朝の死因については脳卒中説、あるいは受傷後の破傷風説などがある中、水を飲んで死亡したとされる説があるそうです。
--悪い水でも飲んだんですか?
陳:いや、そうじゃなく、つまり落馬後、一旦は回復したものの、療養中に水を誤嚥し、肺炎から敗血症をきたして死亡したという説です。今でいうところの誤嚥性肺炎。これが直接の死因と考えられているわけです。
--じゃ、死因は歯周病じゃなく肺炎では。なんだか、歯科医師会のホームページも話題に乗っかろうと、無理してませんか?
陳:近年、歯周病と全身疾患との関連はいろいろと指摘されています。例えば、歯周組織の慢性炎症によって出てくる毒性物質が歯肉の血管から全身に入ると、炎症性物質が血糖値を下げるインスリンの働きを悪くさせて糖尿病を悪化させたり、あるいは毒性物質の血管の動脈硬化への関与から心筋梗塞や脳梗塞にもつながります。また歯周病菌のひとつPorphyromonasgingivalisが持つタンパク質分解酵素がアルツハイマー病を悪化させる可能性も指摘されています。
--それで?
陳:頼朝の誤嚥性肺炎説に関しましても歯周病菌の一部が誤嚥により気管支から肺にたどり着くことで誤嚥性肺炎を引き起こすという指摘が根拠のようです。生涯を通じて権力抗争の連続で幾度となく命を狙われたりしていたでしょうから、きっとストレスで歯周病を悪化させてしまい、やがては全身を蝕まれていったのかもしれません。
--確かに頼朝さんはドラマを観ているだけで、逃げたり、攻めたり。平家を破ってからも、実弟や一族を粛清したり、ストレスに満ちた日常だったんでしょうしね。
陳:実際、ストレスがたまると自律神経のバランスが崩れて唾液の分泌量が減ってドライマウスになりやすく、そうなると、う蝕や歯周病を悪化させますからね。もし、頼朝が適切な口腔ケアや歯科治療を受けていたら、落馬で寝たきりになったとしても、少なくとも誤嚥性肺炎で死ぬことはなかったかもしれません。すると「鎌倉殿の13人」も異なったストーリー展開になっていたんでしょうね。