昔々駕籠はセレブ御用達だった? 上方落語「住吉駕籠」から見えてくる旦那衆の粋な笑い

小嶋 あきら 小嶋 あきら

 古くから多くの参詣者で賑わった大阪の住吉大社。すみよっさんで有名なその門前には、かつて客待ちをする駕籠屋(かごや)がたむろしていたそうです。駕籠屋という仕事はもちろん体力がないとできませんから、主に若い男性の仕事です。また人の入れ替わりも多くて、今日は西に明日は東にと、まるで雲のように居所が定まらない者も多かったといいます。そういう流れ者を「雲助」、そういう人が担ぐ駕籠屋を「くも駕籠」と呼ぶことがありました。

上方落語「住吉駕籠」とは?

 上方落語に「住吉駕籠」というネタがあります。

 ベテランの駕籠屋と組んだ、新米の頼りない駕籠屋のお話です。住吉大社の前の広場で、参詣の帰りの客を当て込んで客待ちをしているのですが、妙な客にからかわれたり、酔っ払いに絡まれたり、なかなか商売になりません。

 そこに現れたのが、堂島の米相場で儲けているというお金持ちの旦那です。気前よく倍の料金、二分も払うと言います。二分というと一両の半分です。なかなか今のお金に直すのは難しいのですが、一両はだいたい10万円から20万円くらいと言われています。それだけ払うと約束して、さらに「これでちょっと一杯引っかけておいで」と酒代までくれました。駕籠屋が喜んで飲みに行ってる間にこの旦那、さっさと駕籠に乗り込むと、こっそり友達を駕籠の中に呼び込んでしまいます。

 もともと駕籠というものは、乗車定員は一人です。駕籠屋は前後に一人ずつ必要ですから、つまり二人で一人のお客を運ぶというとても贅沢な乗り物でした。かなり裕福な人でないとなかなか乗れないものなんですね。この旦那はお金持ちですから駕籠代を誤魔化そうとか、そういう意図は無いんでしょうけど、内緒で二人乗りして、ここから堂島まで二人で楽しく喋りながら帰ろうという魂胆です。

 さて、何も知らない駕籠屋。お酒を飲んで気持ち良くなって意気揚々と駕籠を担ぎますが、なんか妙に重い。さすがにこれはおかしいと思って駕籠の中を覗いてみると、なんと二人乗っている。これはひどい、降りてくれと言うと、その旦那。「自分は堂島でも強気(お米の相場が上がるという予測で勝負をする人)で通ってる相場師や。下がる降りるは縁起が悪い。駕籠代ははずむからこのまま行ってくれ」と言います。

 駕籠屋は旦那の勢いに押され、また余分にお金がもらえるということもあって、仕方なく二人乗せたまま動き出します。

 駕籠の中の二人は仲良しで、いろいろな話で盛り上がりますが、そのうち相撲の話になると熱が入って、ついに籠の中で相撲を取り始め、駕籠の底を踏み抜いてしまいます。さすがに駕籠屋も怒って降りろと言いますが、旦那も強情で「わしら二人、中で歩くからこのまま行け」と。まるで電車ごっこみたいな状態ですね。一気に荷物が軽くなって喜ぶ駕籠屋、悪のりしてちょっと走ってみたりします。中の旦那は大慌てです。

 そんな様子を親子連れが道ばたで見ています。

「お父ちゃん、駕籠屋の足て何本?」
「そら二人で担ぐから四本やろ」
「あの駕籠、八本もあるで」
「ええ?なんやて?…ああ、ほんに。よう見とき、あれがクモ駕籠や」

「住吉駕籠」の聴き所を笑福亭遊喬さんに聞いてみました

 そんな「住吉駕籠」というお噺を、このほど笑福亭のベテラン落語家・遊喬さんが、住吉大社からほど近い安立本通商店街で演じられます。遊喬さんの師匠、六代目笑福亭松喬さんは生前、安立商店街と関わりがあり、その縁で遊喬さんも過去に三年間、安立寄席という落語会をされていました。今回、久しぶりにその安立寄席が復活する形です。それで、この「住吉駕籠」の聴き所について、ちょっとお話を伺いました。

 「噺の中にね、駕籠代の交渉をするシーンがあります。旦那が出てくる前のとこに出てくる町人とね、冷やかしなんですけどね。500やとか、300で行けとか交渉する。あの件を最近の噺家さんはわりとみな省略しはるんですよ。わからんからね。うけへんし。せやけどそこ省略したらあかんと、うちの師匠には言われました。あと、住吉さんの前の三文茶屋で飲んできたゆう酔っ払い。ほんまに昔住吉さんの前に三文茶屋て有ったらしいでんな。その酔っ払い、『さんざん飲み食いして料金が二分一朱。安いな』て言いよるんですね。二分一朱てこれ結構高いで。5万円とか10万円とかでしょ。まあせやから、この酔っ払いも結構裕福やゆうことでんな。いや、見栄でゆうてんのかもわからんけど、この界隈にはそういう裕福な人が住んではった、ゆうことかなと。そんなところを聴いて、噺を楽しんでくれはったらと思います。」

  遊喬さんが住吉で演じられる住吉駕籠、これはきっと面白いに違いありません。 

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