トロリーバスなどの特殊例は除き、鉄道には線路が不可欠です。ところが線路幅は全国的いや世界的にも統一されていません。関西には線路幅にまつわる興味深いエピソードがあります。
JRは在来線が狭軌、新幹線は標準軌
先にJRの線路幅を確認しましょう。JRでは在来線は「狭軌」1067mm、新幹線は「標準軌」1435mmです。世界では標準軌の採用国は多いですが、日本は狭軌で鉄道建設が進みました。
なぜ日本では狭軌が主流になったのか。一説には英国技術者の指導の下、平野が少ない国土にコスト安かつ急ピッチで鉄道建設を進めていくには狭軌が適切という判断があったと言われています。
日本初の標準軌都市間路線の興味深い歴史
一方、関西大手私鉄の線路幅事情は少々複雑です。阪急、阪神、京阪、近鉄(南大阪線・吉野線系統以外)は標準軌、近鉄南大阪線・吉野線系統と南海は狭軌です。
関西大手私鉄で最も早く標準軌を採用したのは阪神です。阪神は1905年に出入橋~三宮間で全国初の標準軌を用いた都市間電気鉄道として開業しましたが、開業には紆余曲折がありました。
1890年代、坂神電気鉄道は高速電車で大阪と神戸をで結ぶという野心を持ち、アメリカ式の高速運転に有利な標準軌の採用を決定。阪神間30分・10分間隔運転を目標に定めました。
ところがこの計画には難点がありました。当時、大阪~神戸間には官営鉄道(東海道本線)が存在していました。国は官営鉄道に並走する鉄道路線ができると共倒れの可能性があるとして、私設鉄道条例に基づく普通鉄道の新設を認めない姿勢でした。
1896年、坂神電気鉄道は阪神地域に鉄道を開業しようとした摂津電気鉄道が合併し、社名は摂津電気鉄道に。同社は路面電車を対象とした軌道条例に基づいて鉄道路線新設の免許を得ることになりました。しかし路面電車ですと道路の上を走ることからスピードが出せません。
そんな悩ましい問題を解決したのが鉄軌道の許認可権を持っていた逓信省の役人でした。「少しでも道路に接すればよい」という超寛大な裁定により、最終的に路線の大部分は普通鉄道と同じ専用軌道区間になりました。
1899年7月に社名が阪神電気鉄道になり、1905年に開業しました。
阪神は官営鉄道よりは所要時間は要したものの、駅の数や列車本数の多さで圧倒。次第に官営鉄道利用者を奪っていきました。現在は標準軌を採用した目論見通り、大阪梅田~神戸三宮間を約30分で結び、特急・直通特急を10分間隔で運行しています。
ライバルでも線路を共有する南海とJR西日本
現代ですと、やはり南海とJR西日本との関係を取り上げるべきでしょう。先述したとおり、南海はJR在来線と同じ狭軌です。そのため過去には南海のディーゼルカーが国鉄紀勢本線に乗り入れたこともあります。
現在、乗り入れは行っていませんが、南海空港線・JR関西空港線のりんくうタウン~関西空港間は共用区間となっています。つまり同じ線路上に南海とJRの電車が仲良く走るのです。
りんくうタウン駅は南海・JRの共同使用駅となり、駅業務は南海の担当です。そのためJRの駅名標も南海風です。
一方、関西空港駅は南海・JRが別々になっています。ぜひ関西空港を利用する際は南海とJRの競演にも注目してください。
標準軌と狭軌が混在する近鉄の夢
近鉄は標準軌路線と狭軌路線が混在しています。狭軌路線は南大阪線・吉野線系統になり、橿原神宮前駅で標準軌の橿原線と連絡はしますが、直通列車は設定されていません。
しかし、もしかしたら線路幅に関係なく自由自在に通れる夢の車両が登場するかもしれません。近鉄は2018年に車輪の左右の間隔を線路幅に合わせて変えられる「フリーゲージトレイン」の開発に着手しましたが、その後あまり話題にあがりませんでした。
2022年5月に開催された「鉄道技術展・大阪」近鉄ブースにもフリーゲージトレインに関するパネルがあったことから、計画自体はあるものと予想されます。
実は関西にはまだまだ線路幅にまつわる興味深いエピソードがあります。今度、列車に乗る機会があれば黄色い線の内側から線路幅が狭いのか、広いのかチェックしてくださいね。