例年8月の中旬におこなわれる日本の夏季行事「お盆」。本来は、ナスやキュウリをもちいた「精霊馬」と呼ばれるお供えなどを使用し、祖先の霊を祀る習慣がメジャーですが、今回は少し変わったお盆の習慣が話題となっています。
ツイートをおこなったけんけんさん(@kenken_ikimonoy)のお祖母様宅では、毎年見慣れないお盆習慣がおこなわれているとのこと。「お盆になるとコップの中に水を注いで生米入れてナゾノクサぶち込んだ物をお供えして、横にいけた花の上に生の平打ちのうどんかける」と、写真と共に投稿されたツイートには、2.5万ものいいねが集まり、多くの人が考察コメントを寄せました。
この習慣は、お祖母様が群馬県で嫁いでから知ったもので、今は由来を知る人が誰もいなくなったなかで「謎の儀式」と化しているそう。さまざまな説が集まっていくなかで、「ナゾノクサ」と称された植物は「メドハギ」というハギ属の植物であること、各地方で似た習慣が見られることなどが明らかになっていました。
そのほかにもリプライには、「沖縄本島、奄美南部、対馬において、メドハギを精霊箸としてお盆に備える習慣がある」「埼玉でも、メドハギを用いたお盆の習慣がある」「香川県小豆島において『背負いそうめん』というお盆の習慣がある」などの意見があり、情報が錯綜。また、今回とは関係がなくとも、地方によってさまざまなお盆習慣があるというコメントが多くの人から寄せられていました。
各地域で見られる盆習慣
上記の情報からどういったことが考えられるのか、民俗学研究をおこなっている大江篤さん(園田学園女子大学学長)にお話を訊いたところ、まず前提として「類例が近隣の地方にもあるということは調べることはできますが、オリジナルの可能性や他地域から伝播したということは、年中行事については証明することは困難」とのこと。
そもそもお盆行事とは、『仏説盂蘭盆経(ぶっせつうらぼんきょう・仏の教えや教義を記したもの)』にもとづく仏教行事を基盤としているそう。「このお経では、お釈迦様の弟子の『目連尊者』が、餓鬼道に苦しんでいる母の姿を見ます。餓鬼道にいる亡者は空腹で食べ物を口にしようとすると、火になって食べることができないのです」。
そこで、お釈迦様に聞いた「餓鬼道の母も口にすることができるもの」を元に、施餓鬼の供養として、盆の期間には盆棚に食べ物を供えます(地域、宗派によって異なる)。そんななかで、今回の事例において言えることは、2点。
1点目は、水を注いだコップに生米を入れる習慣について。これは「ミズノミ」という、キュウリやナスをサイの目に切ったものと生米を鉢に盛るものに近く、これに樒の葉やミソハギで水をかける習慣が兵庫県にあるそうです。また、一部文献では、徳島県・壱岐島・石垣島・富山県でも類似性がみられると記載されており、幅広い地域でおこなわれている信仰のよう。
2点目は、うどんについて。うどんやそうめんを精霊棚に供えることは地域によってあるそうで、これは仏教行事とは関係なく民間信仰として麦の収穫祭と紐づけられることが多いとのこと。その一方で、兵庫県丹波篠山市などでは、麦製品ではなく精霊棚に出始めの稲穂を掛ける習慣があるそうです。
Twitterでは引き続き考察が続く
取材では、さまざまな地域のお盆習慣と類似している傾向がみられましたが、けんけんさんのお祖母様やご家族のまれ育ちはずっと群馬県とのことで、発祥のルーツは不明。前述にもあった通り、オリジナルの可能性を証明できない部分もあり、真相は謎に包まれています。
しかし現在この投稿には、引用リツイートを合わせて約300件のコメントが集中。けんけんさん本人も「Twitterの集合知ってすごい」とコメントしており、まだまだ考察は続けれらそうです。興味のある方は、情報を取りまとめて検証をおこなってみてはいかがでしょうか。