殺害女性に巨額の保険金 養子の男を殺人容疑で再逮捕 元刑事は「女性に結婚示唆して契約」の手口に注目

小川 泰平 小川 泰平

 2021年7月、大阪府高槻市で当時54歳だった会社員・高井直子さんが殺害された事件で、大阪府警は25日、直子さんとの養子縁組届を出した際に証人を捏造したなどの有印私文書偽造・同行使の疑いなどで逮捕されていた養子の高井凜(りん)容疑者(28)を殺人容疑で再逮捕した。直子さんには1億5千万円の保険金がかけられていた。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は今回の再逮捕を受け、当サイトの取材に対し、殺人容疑の立件に時間を要した背景や捜査のポイントを解説した。

 2021年7月26、直子さんは自宅浴室の浴槽内で死亡している状態で、訪問した親族に発見された。司法解剖の結果、死因は溺死。直子さんに重い持病はなく、体内からアルコールや薬物は検出されなかったことや、右手首には結束バントが巻かれ、さらに左手首にもバンドを巻いて圧迫されたような跡があり、体の一部にうっ血もあった状況などから、警察では殺人事件として捜査していた。

 凜容疑者が直子さんにかけた生命保険(2社で計1億5000万円)の受取人を自分にして、その2カ月後に直子さんが死亡したという状況にも関わらず、殺人容疑での立件には時間を要した。

 小川氏は「逮捕するには、公判維持を前提に、起訴できるかどうかが必要になる。保険金の金額や状況を見れば、誰が見ても〝不自然〟と思うのですが、不自然だから逮捕するというわけにはいかない。逮捕しても容疑者が黙秘や否認を続けても、起訴できるだけの材料(証拠)を得る準備が必要だった」と説明した。

 さらに、同氏は「凜容疑者は養子縁組の有印私文書偽造・同行使の疑いで逮捕された後、今回の殺人容疑での再逮捕前に、別のクレジットカード詐欺でも逮捕されている。最初の逮捕からの20日の勾留期間後に殺人容疑で再逮捕したのではなく、別件逮捕を挟んだということは、殺人容疑での立件に苦労したのだと推測される。決め手に欠けるということで、殺人での再逮捕に踏み切れず、その後の捜査で何か決め手があって、今回、逮捕令状の請求ができたのだと思います」と補足した。

 凜容疑者は2018年、外資系生命保険会社に在職していた当時、顧客として直子さんと知り合い、養子縁組。21年に退職していた。

 小川氏は「容疑者は保険の契約を取る時に、女性の顧客に対して(自分との)〝結婚〟をちらつかせて契約を取っていたという証言があります。そういうことを考えると、今回の被害者に対しても、それに近いような言動をしていた可能性が考えられる。被害者とは結婚ではなく、養子縁組という関係になりましたが、そういった言動をしていた可能性も捜査の中で出ているのではないかと思います」と指摘した。

 今後の捜査ポイントについて、小川氏は「直子さんの右手には結束バンドが残っていた。それを外し忘れたのか。そうでなければ、第三者が疑われるわけですから、保険金を掛けて殺人の準備をしていたとすれば、犯行の準備と実行のバランスが悪いと思います。そのあたりの状況や、保険に加入した時の金額のやり取り、そして本人の動機などについて、取り調べでいかに究明解明していくか。本人が黙秘して、しゃべらなければ、関係者から得た供述から立件していく必要があるでしょう」と付け加えた。

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