アイマスク着用の「暗闇ごはん」なぜ注目 万博プレイベントでも開催、生きづらさの問題にも一役?

浅井 佳穂 浅井 佳穂

 アイマスクをした状態で食事を味わうという体験イベント「暗闇ごはん」を実施している僧侶がいます。暗闇ごはんは7月に大阪で行われた2025年の大阪・関西万博のプレイベント「Road to 2025!! TEAM EXPO FES」でも披露されたといいます。今なぜ、暗闇ごはんは注目されているのか。その食事に込められた仏教の教えとは何か。主催する僧侶に聞きました。

 暗闇ごはんを実施しているのは東京都台東区の企業「なか道」です。社長で僧侶の青江覚峰さん(45)に話を聞きました。

 -暗闇ごはんはいつから実施していますか。

 青江 2006年からです。スイスの全盲の牧師さんが視覚障害者の雇用のため暗闇で食事をする「ブラインドレストラン」を実施しているというのをニュースで見て、「食育」の一環で始めました。

 -暗闇ごはんはどのようなものですか。

 青江 暗闇ごはんはアイマスクを着用し、視覚に頼らないで食事を味わうものです。目の前の食べ物に集中して向き合い、静かに自分自身と向き合うことが大事です。現在ではオンライン形式で研修として受講される企業もあります。

 -先日、暗闇ごはんを万博のプレイベントで実施したんですね。暗闇ごはんは通常、約10品目を2~3時間かけて味わうと聞きましたが、7月のイベントはどのように開催しましたか。

 青江 参加者には4品目を約30分かけて味わってもらいました。2日間にわたり親子連れら約100人が参加しましたが好評でした。

 -当日はどんな献立を用意しましたか。

 青江 「玄米の彩りサラダ」「トマトの透明ジュレ」「そぼろ寿司(ずし)」「茄子(ナス)の揚げ浸し」の4品です。

 -参加者の反応はどうでしたか。

 青江 子どもの反応が素直で印象的でした。「これは嫌いな味だからトマト」と言う子どもがいました。香りをかいで、舌で味わって自分の感想で嫌いと言えるのは大事なことです。子どもたちにはトマトやナスは好きじゃないという声が多かったですね。

 -ナスにはへたの部分が含まれていたと聞きました。なぜですか。

 青江 ナスのへたは普段食べないですよね。先入観や固定概念のまま、「ナスのへたは食べないもの」と思っているんです。でも暗闇の中で出されると、ナスが実の部分か、へたの部分か分からないまま食べるわけです。やがて、ナスのへただったと分かると、「ナスのへたが食べられた」という経験が加わるわけです。

 -新型コロナウイルスの感染拡大以降、生きづらさを抱える人は多くいます。暗闇ごはんにできることはありますか。

 青江 暗闇ごはんでは目の前の料理と向き合います。先ほどのナスもそうですが、普段のわれわれはニンジンやイチゴ、ピーマンを見ると、甘いな、酸っぱいな、苦いななどこれまでの経験や先入観で味を判断しています。しかし暗闇ごはんの体験を経て「その食材は本当にそうした味なのか」「先入観にとらわれているだけではないのか」ということに気付くきっかけにしてもらいたいです。

 生きづらさも同じではないでしょうか。生きづらさを感じるとき、人間は外的要因を求めてしまいます。本当に外的要因が生きづらさの原因でしょうか。固定概念や先入観にとらわれていないでしょうか。そうした気づきが得られる機会になればと思っています。

 -仏教の教えにつながりそうです。

 青江 仏教では「正見(しょうけん)」という教えがあります。正見とは、先入観にとらわれず正しく見るということです。2000年以上前のお釈迦(しゃか)さまの時代から人間というのは正しく目の前のものを見ることができない。だから生きづらくなるという考え方は変わっていません。その答えは仏教にはたくさんあるので、イベントという形で皆さんに伝えていきたいと思っています。

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