安倍氏を撃った「自作銃」を検証 3Dプリンター製作の銃で過去に事件も、はらむ危険性 元刑事が解説

小川 泰平 小川 泰平

 安倍晋三元首相が7月8日に奈良県内で選挙演説中に銃撃されて死亡した事件で、殺人容疑で送検された元海上自衛隊員の山上徹也容疑者(41)が凶器となった銃について「ユーチューブの動画を参考に製造した」と供述していることが明らかになり、この「銃を自分で作る」という行為もまた社会に衝撃を与えた。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は当サイトの取材に対し、今回の事件でクローズアップされた「自作銃」について、近年、実際にあった前例にも触れながら、その実態や問題点などを検証した。

 山上容疑者が安倍氏銃撃に使った銃は、銃身となる鉄パイプのような筒2本を黒いビニールテープで木の板に巻いて固定したもので、1度に6個の弾丸が発射される銃弾も自作したと供述。小川氏は「容疑者は『部品等をネットで購入した』と供述しており、銃弾については空(から)の薬きょうを買ったということです。自作銃の銃口とサイズが合わなければ弾は出ないわけですから、空の薬きょうに自分が火薬を詰めたということだと思います」と補足した。

 では、拳銃は素人でも簡単に作れるものなのか。小川氏は「そもそもユーチューブを見たからといって、誰でも拳銃を簡単に作れるものではない」とした上で、「最近は銃の作り方もネットの動画で流れている。また、3Dプリンターで銃の部品を作るといった前例もある」と解説した。

 その具体例として、2014年5月に、3Dプリンターで拳銃を作り、所持していた銃刀法違反容疑で大学職員の男が神奈川県警に逮捕されている。3Dプリンターとは3次元モデルを元に立体物を現実に出現させる機械のこと。一般的に知られる2次元の紙に印刷するプリンターではなく、立体物を出現させるブリンターだ。この事件では、容疑者の自宅からは3Dプリンターを使って製造した拳銃が5丁押収され、うち2丁は殺傷能力があると鑑定された。3Dプリンターで製作された拳銃に銃刀法違反が適用されたのはこの事件が初めてだったという。

 また、今年6月、茨城県警神栖署が昨年10月に同県神栖市内で遺体となって発見された当時52歳の男性が自作の拳銃で自殺したとみて、銃刀法違反容疑で容疑者死亡のまま書類送検した。同署によると、この拳銃は男性が3Dプリンターで製造したとみられ、自宅から同プリンターや拳銃の設計図データなどが押収された。銃はプラスチックと金属で作られていたという。

 こうした「自作銃」は増えているのだろうか。

 小川氏は「増えているということではないが、実際にこうした前例があり、銃を自分で作る者が潜在的にいるということです」と回答。さらに、「拳銃の犯罪は約8割が暴力団関係で、(銃の入手ルートのない一般人の場合は)殺害が目的で作る者、自分の趣味として作る者という2つのタイプがいる。銃好きで、銃を撃つためだけに海外に行く人もいるように」と指摘し、「銃の自作は非常に危険を伴うということを知って欲しい」と呼びかけた。

 その危険性について、小川氏は「今回、山上容疑者が使った自作銃の筒は2本でしたが、自宅から押収されたものの中には3本×3の9筒、機関銃のような物もあった。過去には、実際に自分で銃を作って自殺した者もいて、これは昨年の茨城県での事案ですけど、もっとさかのぼれば、自作の銃で誤って自分の右手を撃った例もある。火薬の量などによっては暴発する危険性もある。弾が出る部分が火薬の量に耐えられなくなって暴発するといった知識もないので、こういう銃を作るというのは非常に危険です。もちろん、作って撃つということも危険。山上容疑者は今回の事件前に試射もしていたということなので、その時に暴発していれば、自分の命をなくしていた可能性もあった。拳銃にはそういう危険が伴う。拳銃イコール、命を落とす。銃を作っていると自分の命も落としかねないということです」と訴えた。

 では、銃を自作する方法を伝えるネットの動画などが問題視され、既に何らかの規制は入っているのだろうか。

 小川氏は「ネットの動画で拳銃の作り方を説明したらダメといった規制は、覚醒剤の打ち方を教えたらダメといったこと同様に、そういった規制は今のところないです」とした上で、「警察庁は『拳銃110番報奨制度』というものをやっていて、通報による情報に基づいて拳銃が押収できたら、報奨金を払っています。サイバー犯罪対策課などでは、拳銃だけでなく、薬物や性犯罪などの記述に関して監視をしているものの、中には見落としているものや、そこを入り口にし他のサイトに誘導するものもあるので、そういった時に通報してもらうという制度です。銃の自作についても視野に入っていると思います」と付け加えた。

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